満タン補充から「補充保留」にルール変更

 リアクトが可能にした作業時間短縮のからくりを紹介しよう。最大のポイントは、補充ルールを昔ながらの満タン補充から「補充保留」に切り替えたことである。補充保留とは、前回補充時以降の販売本数が少なくて、現状の在庫数のままでも次回の補充時まで売り切れそうもないと予測される商品は補充を見送る考え方だ。売り切れが想定される商品にだけ補充指示を出す考え方ともいえる。

 従来の満タン補充は、こうした見送りの判断をせずに「販売本数=補充本数」として売れて空いた分をすべて満タンにするように補充担当者に言いつけていた。補充担当者は営業車から在庫を1本単位で数えて取り出し、形状も様々なバラの在庫をすべて台車に積み込んで自販機まで赴いた。数本しか売れていない商品を正確に1本1本数えて台車に積んで運ぶ手間は思いのほか大きい。もし必要数を間違えて営業車に取りに往復すると、ビルのオーナーから「補充の往来が多過ぎる。手早く済ませてほしい」と叱られることもあった。

 今回の補充保留ルールでは、営業車から細かい本数まで正確に在庫を取り出す手間を省け、台車に積む総在庫数が従来の60~70%に減っている。作業時間も、重い飲料を運ぶ負荷も軽減した。

 満タン補充という従来の「常識」を過去10年にわたって疑わなかったのは、販売機会損失の可能性を限りなく最小にすることを重視していたからだ。実際には前回の補充時から1~2本しか売れていない商品なら、「補充を次回以降に先送りしても問題がないのが実情だった」(アサヒカルピスビバレッジの菊地修・直販営業部部長)。

 ここ数年、飲料メーカーの関心は、限られた自販機スペースに多様な商品を並べて品ぞろえを増やすことで、いかに消費者の足を止められるかにあった。アサヒ飲料がカルピスとの商品の相互乗り入れを進めたのも、こうした動機が背景にあった。アサヒ飲料の強みである缶コーヒー「ワンダ」や炭酸飲料「三ツ矢サイダー」、お茶「十六茶」と、カルピスの主力である乳性飲料「カルピスウォーター」などを一緒に陳列してきたのである。確かにその効果は出ており、2008年12月期の中間決算では飲料業界全体が伸び悩んだなかで、アサヒ飲料は販売数量が前年比で9.4%増と伸長した。

 ただし、増え続ける品目数を裏で支える在庫補充の現場は、作業が複雑になる一方だった。補充保留という発想はそうした経緯で生まれた。

事前商品予測データの提供で1往復を実現

 従来は補充担当者が営業車と自販機の間を2往復していたのが、業務ルールを補充保留に変更してからは1往復で済んでいる。こうした往復回数の削減にはITが貢献している。

 これまで補充担当者は、最初に営業端末だけを持って自販機まで行き、そこで自販機から売り上げデータを吸い上げて、売れた本数と売上高を確定。そこから一度営業車に戻って販売本数と同じ数の在庫を取り出し、再び自販機まで戻って満タン補充して帰った。そのために2往復が必要だった。

 今回、往復回数を減らすことができた裏では、リアクトが備える自販機1台ごとの商品の「販売予測機能」を活用している。前回補充時以降に売れた本数を、過去の販売実績に基づいて事前にシステムで予測する。アサヒ飲料が独自に編み出した計算式を使って、数値をはじき出す。販売予測しながら在庫補充するのは業界初の試みである。