秋山写真工房が独自に開発した撮影機材。左側のデジタルカメラで右側のフイルムカメラで同時に撮影。フイルム写真を望む顧客にも対応している
秋山写真工房が独自に開発した撮影機材。左側のデジタルカメラで右側のフイルムカメラで同時に撮影。フイルム写真を望む顧客にも対応している
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 首都圏のホテル・結婚式場を中心に写真館17店舗を運営する秋山写真工房(東京・港)は2009年3月から、プロカメラマンが撮影した写真データすべてをウェブサイトに掲載する新システム「ピクチャーバスケット」の運用を全店で始めた。顧客が写真を選びやすくしたことでプリント注文枚数が2~3倍に増え、それに比例して客単価が上昇する効果が出ている。

 撮影した写真データをウェブ経由で顧客に見せることは、技術的には難しくない。しかし、写真館業界でこれを実践している企業はほとんどない。写真館はスタジオや機材の費用、カメラマンの人件費などすべてを、最終商品であるプリントの代金で賄う。多くの写真館は、収益の源泉である写真データを社外に出すことには慎重だ。大手写真館チェーンなどは、撮影した写真を画面に表示し、顧客がその場でプリントする写真を選択する方式を採用しており、データを外部に出していない。

 秋山写真工房も当初は写真館の中で写真を選んでもらう方式を検討した。しかし、「お客様にその場で写真を選んでもらうと、余分な写真まで買っていただくことになる。当社にとって短期的な収益にはつながるが、長期的にはお客様を後悔させてしまう」(高辻謙正取締役)と考え、ウェブを活用する方式を採用した。

 ピクチャーバスケットのサイトには、新郎と新婦の2人の写真、新婦だけの写真など構図ごとに10~20点の写真を掲載する。顧客はIDとパスワードを入力したうえで、これらの写真を自由に閲覧し、注文できる。写真は撮影日から3カ月間閲覧でき、親戚などの携帯電話画面に転送する機能なども備えて、じっくりとお気に入りの写真を選べるようにした。ただし、写真データには「Sample」という文字を入れるなどの加工を施してあり、高画質の紙の写真を入手するためには注文する必要がある。

 目をつぶっているなどの明らかな失敗写真を除いて、取捨選択をせずに10~20点の写真をそのまま載せるのがポイントだ。人物写真では、同じ構図でもシャッターを押すごとに表情が微妙に異なるものになる。プロカメラマンがベストの写真を選んで顧客に見てもらう方式から、多数の写真を顧客に見せて自分で選んでもらう方式に変えたわけだ。「プロのカメラマンから見れば意外な写真が選ばれることもよくある」と高辻取締役は明かす。少し笑っている写真とすましている写真の両方が欲しいといった注文が増えて、1構図当たりの注文枚数が2~3枚に増加した。

 秋山写真工房は、人物や花の写真で著名な故・秋山庄太郎氏が1971年に設立した企業。多店舗展開を進め、横浜市や東京・台場などの大型ホテル内にある17カ所の写真館を運営し、結婚写真などを撮影している。少子高齢化・晩婚化などの影響で売上高は十数億円程度で、この数年は減少傾向だった。顧客数の増加が望めない状況で、新システムを切り札に客単価の向上を目指している。撮影機器のデジタル化なども含めた投資額は約2000万円。