写真1●三菱地所の前田匠プロジェクト事業部主事
写真1●三菱地所の前田匠プロジェクト事業部主事
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 三菱地所が異業種との協業でマンション事業に力を入れ始めた。「無印良品」ブランドを展開する良品計画が運営するウェブサイトを通じ、同サイトの会員延べ4万3000人に生活スタイルに関するアンケートを6カ月にわたり実施。会員の声を反映した無印良品仕様のマンション「MUJI VILLAGE パークハウス 木々 津田沼前原」(千葉県習志野市)を良品計画と共同開発した。2009年3月からモデルルームを公開しており、同年5月中にも販売を開始する。

 今回の物件コンセプトに「プレーン(飾らない)」という言葉を掲げたかった三菱地所が、コンセプトのイメージに近く、「一般消費者の生活スタイルを考え抜いている」(前田匠プロジェクト事業部主事)と評価した良品計画に共同開発を依頼した。良品計画も無印良品ブランドの戸建て住宅開発に続き、マンションにも進出できる好機であり、東京・丸の内などに代表される街作りのノウハウを持つ三菱地所と組むことにメリットを感じて手を組んだ。

 三菱地所がマンション事業において、コンセプト固めの段階から他社の協力を仰ぐのは今回が初めてだ。これまでも内装デザインを他社に委託するといった取り組みはあったが、あくまでもマンションのコンセプトは自社ですべて決めていた。

無印良品が好きな顧客の生活スタイルを知る

 パークハウス木々津田沼前原は全152戸で、中心価格帯は3000万円台である。前田主事は「都心の一等地に建つ高級マンションのように設備の豪華さをアピールするのではなく、飾らない暮らし方そのものを提案する設計にしたかった」と語る。そこで、「自然体の暮らしが好きな顧客はどんな暮らし方をするのか」から考え始めることにしたという。そこで、2007年6月に良品計画に声をかけた。

 良品計画の担当者とは、基本的な設備一つひとつの必要性から議論した。例えば、壁の最下部に取り付ける幅木が必要なのかどうかといった点だ。前田主事自身は幅木はあって当然のものと認識していたが、良品計画の担当者は「幅木がないほうが掃除しやすいのではないか」と指摘。前田主事は「幅木が必要な理由を改めて考えるいい機会になった」と振り返る。両社で議論した結果、壁紙がめくれてくるのを防ぐ幅木は必要だが、一般のものよりも厚みを薄くして、掃除のしやすさにも配慮した設計にすることでまとまった。

 一方、顧客の声を収集するためのネットでのアンケートは、2007年11月から毎月1回のペースで実施した。質問内容は、会員の生活スタイルの詳細を尋ねるものがほとんどだ。例えば、隣り近所との付き合い方やリビングルームでの過ごし方などである。

写真2●「床に座ってテレビを見る」という声を反映して設計したリビングルーム
写真2●「床に座ってテレビを見る」という声を反映して設計したリビングルーム
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 三菱地所にとって意外だったのは、リビングルームでのテレビの見方だった。前田主事はソファにゆったりと座って見るという回答が多いと予想していたが、実際には「床に座って見る」顧客が大半だった。この回答を参考にして、リビングルームには床暖房を設置することを決めた。このように顧客の声を反映しながら、無印良品らしさを追求してマンションを作り上げた。

 既に顧客からの反応には手応えを感じている。3月にモデルルームを公開したばかりだが、「無印良品ファンなどから数十件の引き合いがある」(前田主事)。ネット会員に実施したアンケートの副次的な効果とも考えられる。問い合わせ件数は1000件に達し、モデルルームの見学予約も1カ月先まで入っているという。

 三菱地所は2009年4月に累計9万5000戸のマンション供給実績を持つ藤和不動産を完全子会社化するなど、主力のオフィスビル事業に加えてマンション事業に力を入れる姿勢を鮮明にしている。パークハウス木々津田沼前原の売れ行きが好調なら、今後も良品計画との協業に力を入れる可能性が高い。