セブン銀行のATMに現金を補充・回収するALSOKの警備輸送担当者。必要な紙幣枚数は資金計画担当者とシステムで予測する
セブン銀行のATMに現金を補充・回収するALSOKの警備輸送担当者。必要な紙幣枚数は資金計画担当者とシステムで予測する
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 綜合警備保障(ALSOK)は2009年7月までに、ATM(現金自動預け払い機)の現金管理業務において、必要な紙幣の補充枚数を予測している「資金計画担当者」の支援システムを完備する。ALSOKは約1万4000台のATMを保有するセブン銀行から現金の補充・回収業務を一手に引き受けており、全国34カ所にある「現金センター」に合計42人の資金計画担当者を置いている。担当者はATM1台1台ごとに異なる1万円札と1000円札の必要枚数を毎日予測し、補充指示を出す。この作業の大部分を「資金計画支援システム」を使って自動化し、担当者は予測が難しい一部の「癖のあるATM」の管理に時間を割けるようにする。

 ALSOKは2009年2月に、SASインスティチュートジャパン(東京都中央区)が提供している需要予測ツール「SAS Demand Driven Forecasting」を使って、一部の現金センターで資金計画支援システムの試行を開始していた。すると翌3月末までには、全体の約90%のATMについて、前日までの入出金の実績から翌日に必要な紙幣枚数を精度よく予測できることが確認できた。そこで7月までにすべての現金センターに支援システムを本格展開することを決めた。

 ALSOKの竹内崇・ATM業務室長は「資金計画支援システムで90%のATMの現金予測を自動化できれば、資金計画担当者は残り10%の“やんちゃなATM”の需要予測に集中できるようになる。これまで担当者はすべてのATMの現金予測に一律に時間を注いでいたが、支援システムが稼働すれば、人とコンピュータで得意分野を補完し合って対応できるようになる」と話す。

コンビニATMは1台ごとに「癖」がある

 セブン銀行のATM管理業務のためだけに設置されたALSOKのATM業務室の至上命題は、「より少ない現金で紙幣切れを起こさずにATMを24時間365日運営していく」ことである。これはつまり、最小限の「在庫」で売り場を保ちながら「欠品」も起こさないという小売業ならではの発想だ。その原点はセブン-イレブン・ジャパンの店舗運営にある。

 小売業が作ったATM専業のセブン銀行は開業当初からセブン-イレブンの経営思想を踏襲しており、紙幣もコンビニエンスストアの「商品」の1つに見立てて在庫管理と欠品防止に努めてきた。セブン銀行のATMは24時間営業でも稼働率が99.9%と、世界で最も止まらないATMになっている。障害対策だけでなく、紙幣切れを起こさない資金計画が徹底されている証拠といえる。少ない現金でATMを運営できれば、それだけセブン銀行は現金調達で有利になる。セブン銀行が2009年3月期も業績が好調だった理由の1つは現金調達の妙にある。

 特に過去2年ほどで、セブン銀行はATM内の現金をできるだけ少なくしながら、それでも紙幣切れを起こさない体制の強化を打ち出してきた。当然ALSOKは現金の需要予測精度を引き上げる必要性に迫られた。それが今回の資金計画支援システムの構築につながったのである。

 ALSOKにいる42人の資金計画担当者は1人当たり数百台のATMを受け持ち、1台ごとにATMの「癖」を把握しながら補充する紙幣の資金計画を立てている。コンビニATMは店舗の立地や客層によって、1万円札がよく引き出されるATMや1000円札がよく引き出されるATM、入金が多いATMや少ないATMなど、特徴が70種類にも分かれる。それでも資金計画担当者の中には、自分なりのやり方で試行錯誤を繰り返しながら予測ノウハウを貯め、今回の支援システム以上の精度で必要な紙幣枚数を予測できるようになった人もいる。

 しかし、42人の資金計画担当者全員にそれだけ高いレベルの予測精度を求めるのは難しい。そこで90%のATMは支援システムで予測し、残り10%のATMに資金計画担当者の頭脳を使ってもらうことで予測精度の底上げを狙う。

 7月までに資金計画支援システムを全面稼働させた後、ALSOKは2010年3月までには現金センターからATMまで実際に現金を運ぶ店舗巡回ルートを決定している「運行計画担当者」向けの支援システムと、今回の資金計画支援システムをつなげていく予定だ。ALSOKは多い日には1日で200億円もの現金をATMに補充するため、1日で約1500カ所のセブン-イレブンを訪問している。資金計画の予測結果と運行計画を連動させられれば、現金補充・回収業務を一層効率化できるようになるという。