キリンビバレッジが調査対象にしたキャンペーンの展開イメージ。天井からタペストリーをつり下げたり、ペットボトルのふたの部分に首掛け広告を付けたりして様々な形で顧客の注目を喚起している
キリンビバレッジが調査対象にしたキャンペーンの展開イメージ。天井からタペストリーをつり下げたり、ペットボトルのふたの部分に首掛け広告を付けたりして様々な形で顧客の注目を喚起している
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 清涼飲料大手のキリンビバレッジ(東京都千代田区)は、「午後の紅茶」「キリンレモン」など主力ブランドの製品を対象とした新しい店頭販促のプロセス作りに取り組んでいる。「RPDC(リサーチ・プラン・ドゥ・チェック)プロセス」と呼ぶもので、2009年4月以降、本格的に全社展開を進める。小売店の店頭における最終消費者の購買行動を深く調査・分析し、これに沿った販促キャンペーンを実施し、値下げや特売に依存した販促から脱却するのが狙いだ。

 キリンビバレッジは、エンバイロセルジャパン(東京都千代田区)にコンサルティングを依頼した。同社は、米エンバイロセル社の日本法人で、マクドナルドやウォルマート・ストアーズなど米国の有力小売・サービス業に顧客行動分析コンサルティングを提供した実績がある(関連記事)。

 キリンビバレッジは小売店における顧客の購買行動を知るために、これまでは、POS(販売時点情報管理)データを分析する手法を重視してきた。しかし、営業本部市場リサーチ室の能重正規(のうじゅうまさき)室長は「POSデータには購買という“結果”は表れるが、その“背景”にある顧客の行動が見えないのが難点だ」と説明する。例えば、事前にCMなどを見て「午後の紅茶を買う」と決めていたのか、もしそうでなければ、店頭でどのようなPOP(店頭販促広告)が顧客に響いて購買のきっかけになったか、といった“背景”はPOSデータには全く表れない。

 そこでキリンビバレッジは2008年9月に、この背景を調べるための実験を行った。様々な同社製品や他社製品を集め、POPや店頭で放映するビデオ広告などを散りばめた売り場を東京都内のある食品スーパー店舗に設置。この売り場の様子をビデオカメラで撮影するとともに、「トラッカー」と呼ぶ観察担当者を配置して顧客の行動を観察した。さらに、可能な限り顧客に直接アンケートに答えてもらい、「誰のために購入したか(自分のため、家族のため、など)」「どのPOPが購買のきっかけになったか」といったPOSデータには表れない購買行動について調べた。これらを基に、エンバイロセルが規定する「購買転換率(自社製品を検討した人のうち、実際に購入に至る比率)」などの指標を算出し、顧客行動の実態を集計した。

 そしてこの売り場の購買転換率は55%程度と低いことが分かった。清涼飲料は製品自体による差異化が難しい。店頭ではプライベートブランド(PB)商品などとも競合して価格競争も激しい。その分、購入に至るハードルが高いことをこの指標は示している。

 「購買転換率が低いことはある程度予想していた。これをやみくもに上げるよりも、低いことを前提として、とにかく多くの人に検討してもらい、検討時に自社製品を強く印象付けることの重要性を再確認した」(能重室長)

 印象付けるための手段としては、「店頭で放映するビデオ広告」よりも、「ペットボトルのふたの部分に付けた首掛け広告」や「天井からつり下げたタペストリー広告」のほうが購買のきっかけになっている比率が高いことが分かった。スペースが限られる売り場の場合は、ビデオ広告を省いてタペストリー広告だけ実施したほうが効果的である。今後、こうした知見を売り場作りに反映し、売り場巡回などを通じて、RPDCプロセスを回せる体制を強化する。