文藝春秋のネット戦略を担当する西川清史デジタル・メディア局長と田中裕士デジタル・メディア局Number Web編集室統括次長。2人とも元々は雑誌の編集者だ
文藝春秋のネット戦略を担当する西川清史デジタル・メディア局長と田中裕士デジタル・メディア局Number Web編集室統括次長。2人とも元々は雑誌の編集者だ
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 文藝春秋(東京都千代田区)は、2009年4月1日に総合スポーツ雑誌「スポーツ・グラフィック・ナンバー」のサイトをリニューアルオープンした。ポータル・サイト「goo」へのコンテンツ提供から、自社でのサイト管理に切り替えた。ログ解析も自前で行い、コンテンツ制作や広告主への提案に生かす。今回のリニューアルに合わせてウェブ技術者3人や専任の広告営業担当者1人を増員。サイト構築やネット広告の営業に関するノウハウを蓄積し、将来的にほかの雑誌サイトへの水平展開も視野に入れている。

 同社がNTTPCコミュニケーションズ(東京都港区)と共同でナンバーのウェブサイトを初めて立ち上げたのは1999年6月。2002年12月からgoo内の「gooスポーツ:Number Web」に移している。今回のリニューアルでサイトURLは3代目になる。

 gooスポーツでサイトを運営していた時期、文藝春秋側の役割は取材と記事の編集というコンテンツの制作に限られていた。ネット上でコンテンツビジネスを展開するには、サイト全体の設計やSEO(検索エンジン最適化)対策といった技術面に始まり、広告を掲載してくれる企業の開拓といった営業面までこなす必要がある(関連記事)。文藝春秋はgooを運営するNTTレゾナント(東京都港区)に有料でコンテンツを提供していただけだった。

 西川清史デジタル・メディア局長は「うちはこれまでネット戦略に積極的とは言えなかった」と素直に認める。自身が女性誌「クレア」の編集長を務めていた1998年ごろに「サイバークレア」というサイトを開設したがアクセス数が伸びず閉鎖に至っている。「雑誌の編集者は『いいモノさえ作れば読者は来てくれる』と思っているがそうではなかった」と振り返る。ネット上の読者を囲い込みながら、雑誌に頼らず売り上げを増やしていく仕組み作りに力を入れていなかった。当時の文藝春秋ではネットに関して「紙媒体で十分な利益があるし無理に人材や資金を投入してチャレンジする必要はない」という経営陣の判断があったという。

 ナンバーサイトの場合、大手ポータル・サイトと組んだおかげでアクセス数は伸び、一定の売り上げは確保できるようになったものの、「本腰を入れないままではノウハウも残らないしそこそこのコンテンツしか生まれない」(西川局長)状態だった。こうした状況を打破すべく、新しいビジネスモデルを考える任を2年前に受けたのが、田中裕士デジタル・メディア局Number Web編集室統括次長だった。「うちの雑誌で一番ネット向きなのがスポーツのナンバー」(田中統括次長)と考え、自社運営サイトの青写真を描いた。

ネットならではのスポーツノンフィクションを追求

 新サイトにはデータスタジアムから提供されるプロ野球の全試合1球速報や、2009年6月から始める人気スポーツ選手のブログなどを用意する。同年7月には朝日新聞社のインフラを利用したモバイルサイトもオープンする。「これまでは雑誌からの転載記事のほうが多かったが、将来的にはウェブオリジナルのコンテンツが半分占めるようになる」と田中統括次長は語る。

 サイト全体で初年度(2009年度)は年間1500万PV(ページビュー)、サッカーワールドカップ、バークーバー五輪を迎える2010年度は同3500万PVを目標としている。

 スポーツ報道がネット上で魅力的なコンテンツであるのは間違いない。ただし、試合の動画配信サービスなども増えている現在、短いスポーツニュースに慣れた読者にナンバーが得意とする長文ノンフィクションをいかに読ませるかがこれからの課題になる。鳥山靖ナンバー編集長は「ネットで雑誌と同じことをやろうしても読者に受け入れてもらえない。ネットならではの文章や写真の見せ方を確立していく」と意気込む。今後はウェブと雑誌の連携をより強めていくという(関連記事)。

 西川局長と田中統括次長は、ナンバーサイトを試金石にして今後、「文藝春秋」や「クレア」といった看板雑誌のウェブサイトも自社で構築から広告営業までこなす体制の水平展開を考えている。