店舗デザインもアイスの価格も店主が決める

店舗デザインを自由に企画できることが、FCオーナーの経営意欲をかき立てている。親会社の1社である米バスキン・ロビンスは40カ国に5800店以上を持つ世界最大のアイスクリームチェーン
店舗デザインを自由に企画できることが、FCオーナーの経営意欲をかき立てている。親会社の1社である米バスキン・ロビンスは40カ国に5800店以上を持つ世界最大のアイスクリームチェーン
写真撮影:山西 英二(アイスクリームの写真)

 ここでいう日本的FCモデルは、本部とFCオーナーとの交流を密にすると同時にロイヤルティー制度を導入することで、両者が一体となって店舗の業績を高めることに積極的に取り組む体制を指す。当時社長だった松山和夫会長が導入した。

 日本的FCモデルへの転換は2000年4月に実行された。それ以前は、サーティワンは自身で製造したアイスクリームをFC店に卸売りすることだけで稼ぐ、製造卸モデルだった。

 新たなFCモデルでは、本部からFC店への製品の卸売価格を従来よりも31%引き下げ、その代わり店頭における売上高の5%をロイヤルティーとして、同じく3%を広告宣伝費として徴収する。本部は店舗に消費者の足を向かわせるような斬新な広告宣伝やキャンペーンを実践する責任が増す。

 新制度を当時の会社と店舗の業績に当てはめると、計算上は各店の粗利益が平均3.5%上がり、その分だけ本部の粗利益が減ることになった。

 新制度の契約条項の中には、店長研修への参加と、2年以内に店を改装することも盛り込んだ。店舗と本部の両方で「負の連鎖」が浮き彫りとなっていたからだ。詳しくは117ページの図の通りだが、店舗では、売り上げが伸びないと損益状況が悪化し、店舗改装への投資が減り顧客サービスが低下し、イメージダウンとなり、客足が遠のく。後はこの繰り返しだ。松山氏は「負の連鎖を断ち切る仕組みが欠かせない」と考えた。

●社長就任時に松山氏が分析した業績不振要因<br>1995年から本部とFC店の負の連鎖を徐々に断ち切ったおかげで、2002年から業績が飛躍的に拡大。写真は年商50万ドルを超す店舗をたたえるプレートの前に立つ松山和夫会長<br>写真撮影:山西 英二
●社長就任時に松山氏が分析した業績不振要因
1995年から本部とFC店の負の連鎖を徐々に断ち切ったおかげで、2002年から業績が飛躍的に拡大。写真は年商50万ドルを超す店舗をたたえるプレートの前に立つ松山和夫会長
写真撮影:山西 英二
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 改装には数百万円はかかる。比較的優良な店舗の年商が4000万円で、粗利益は2500万円程度。ロイヤルティーや人件費などを引くと純利益は800万~900万円。店舗が新しいほうが顧客を呼び込みやすいが、急に「改装してほしい」と言われても躊躇しかねない。そこで店舗デザインを自由に変えてよいことにし、オーナーが個店経営感覚で顧客をより多く呼べる店作りに励むように促した。本部は各地のデザイン会社十数社と契約し、オーナーがアイデアを具現化できる環境を整えた。

 新制度がもたらす利点を理解し、納得して契約を切り替えてもらうべく、松山氏と副社長の2人が2カ月で全国のオーナーを訪問し、顔を突き合わせて説得した。99%以上のオーナーが契約を更新し、本部もオーナーも「みんなでやっていこう」という熱い空気が一気に醸成された。

 実際、“個店経営”を推奨する戦略は様々なメリットをもたらした。既存店が次々と改装し始めると、多数のオーナーが腕の見せどころとばかりに、店舗デザインやオペレーションを積極的に競うようになったのだ。現在では約300人のオーナーの中に「日本で一番いい店にしたい」と公言する人がたくさんいる。競合するわけではないので、自発的に見学や意見交換し合う風土が根付いている。

 どの店舗も金太郎飴的でないことが、ショッピングセンター(SC)運営会社から高く評価され、各地のSC建設ラッシュの波に乗って飛躍的に店舗数を拡大した。「SCの“客寄せパンダ”を作ってほしいと言われる。落ち目だった時はあまり声をかけてもらえなかったのに(笑)」と松山氏は明かす。

 店舗数が700、800店と増えていくに従い、本部が仕掛ける販促キャンペーンの効果も目立ってきた。マス広告などでキャンペーンを知った消費者の近所に店舗が存在するケースが増えたからだ。例えば2006年8月の「真夏の雪だるま大作戦」。これは、キングサイズのアイスにキッズサイズのアイスを無料で乗せるというものだ。この月の既存店売上高は前年同月比で18%も伸びた。