プラスチック工業用ファスナー(留め具)製造大手であるニフコは2009年3月、ファスナーなどの技術を応用したアイデア商品を多数設置するモデルルーム「アイディアハウス」を横浜市の本社オフィスに新設した。住宅設備メーカーなどに披露して商品の認知度を高めるだけでなく、住宅設備関連事業の営業スタイルを提案型に改革する狙いを込めている。

 住宅設備関連事業ではこれまで、取引先各社の要求に応じて特注で開発する受注生産型の営業体制を敷いてきた。その結果、「ファスナー技術のような当社が持つ強みを生かせない商品も手がけてきてしまった」(総合事業開発センターの小泉昌史営業部長代理)。

 このような状態が続くと、他社との差異化が難しくなり、価格競争に陥って売り上げが伸び悩みかねない。住宅設備関連事業を自動車向け工業用ファスナーに続く第2の事業の柱に育てるには、自らの強みを生かした商品を提案する営業スタイルに変革する必要があった。

 そこで、コンセプトカーを開発して自動車向けに商品を提案してきた手法を応用することにした。営業を統括する能登谷(のとや)良明専務取締役のかけ声のもと、4月から始まる2009年度に間に合わせるべく、約8カ月という短い準備期間で開設した。

写真1●システムキッチンの引き出しの開閉をスムーズにするスタビライザー(赤い丸で囲った部分)
写真1●システムキッチンの引き出しの開閉をスムーズにするスタビライザー(赤い丸で囲った部分)
[画像のクリックで拡大表示]

 アイディアハウス内では、同社のファスナーやダンパーなどの技術を応用した住宅設備向けアイデア商品を45種類設置している。例えば、システムキッチンの引き出しの開閉をスムーズにするスタビライザーや、引き戸の隙間に指を挟むのを防ぐ機能を備えた取っ手、片手で簡単に開閉できる風呂ふたなどである。

 ダンパー技術を応用したスタビライザーは、同等機能を備える欧州メーカーの高級品と比較して部品点数を5分の1に減らすことに成功(写真1)。相応にコストダウンが見込めることから、住設メーカーからの反応も良好という。

写真2●ニフコの木村博総合事業開発センター長(写真右)と小泉昌史総合事業開発センター営業部長代理(写真右)

 同社の木村博総合事業開発センター長はアイディアハウスの効果を「一部のアイデア商品だけでは見向きしない取引先でも、多数のアイデアをまとめて披露することで興味を持ってもらえる」と説明する(写真2)。内装部品の担当者が外装部品のアイデアに興味を示すなど、通常の営業とは違った形で取引につながるケースもあるという。

 同社の2007年度の住宅設備関連事業の売上高は約22億円。2008年度は不況で住宅着工件数が伸び悩むなか、堅調に推移した模様。今後はアイディアハウスを活用した提案型営業強化によって、2012年度までに100億円規模に引き上げることを目指している。