富士フイルムは、2009年4月1日からコールセンターでの顧客とオペレーターの通話内容を自動でテキスト化する音声認識ツールを本格稼働させた。2008年10月に同ツールを試験的に導入し、音声認識率の向上に取り組んでいた。登録する単語数を増やすなどして6カ月間かけて認識率を85%に高めたことで実運用に踏み切った。

 同社内には製品別などで複数のコールセンターがあるが、今回導入したのは「お客様コミュニケーションセンター」。銀塩フイルム関連や企業全般の問い合わせを担っている。年間約3万件の問い合わせがある。

 従来はオペレーターが、電話応対後に問い合わせ内容を報告書として入力していた。同センターの赤塚周氏によると「1件あたり顧客との会話に3分、報告書をまとめる時間は3分が目安」という。だが、電話応対後にオペレーターが急いで入力するので、個々の視点で判断した内容だけを記録していた。

 こうした記録結果は、2004年3月からテキストマイニングツールを活用して分析している。問い合わせ内容の動向を把握したり、改善の芽を探し出したりするためだ。例えば「レンズ付きフィルムであと何枚撮影できるのかの表示が分かりにくい」という声に応えて表示方法を変更するといった改善を数十件実施してきた。

 だが、手作業による記録内容だけに深さや情報量にばらつきがあることを同社は問題視していた。そこで、通話内容を漏れなくテキスト化しようと、2008年10月に音声認識ツールを試験的に導入した。だが、当時の音声認識率は65%だった。しかも、通話内容には、「えー」や「あの」といった無駄な語句も含まれている。そこで、認識に必要な単語登録数を増やしたり、不必要だと考える用語を自動で削除する仕組みを導入したりしながら、実用性を高めようと取り組んだ。こうして音声認識率を85%にまで引き上げた。

 同社は音声認識ツールでテキスト化した記録内容と、手入力された記録内容とをテキストマイニング技術を活用して比較もしてみた。すると、音声認識ツールでテキスト化したほうがより深い分析ができたという。「『使い方が分かりにくい』という顧客の声を、オペレーターは『使い方に関する項目』だけで登録していたが、今回のツールは『不満に関する項目』にも自動で分類するなど、改善に生かしやすい情報になる」(赤塚氏)という。

 今回のツールでテキスト化した通話記録は、応対が適切だったかどうかオペレーター自身に振り返ってもらう教育にも活用していく。お客様コミュニケーションセンターの井坂匠担当課長は「音声データを聞き直すのに比べると、迅速に振り返ることができる。新人のオペレーターに、自らの応対とベテランの応対内容を比較してもらう際に活用したい」と話す。

 音声認識ツールはアドバンスト・メディア(東京・豊島区)の製品を、テキストマイニングツールはクオリカ(東京・江東区)の製品を採用している。両社によると、応対内容を音声認識ツールで自動的にテキスト化したうえで、テキストマイニングを実施しているコールセンター事例は国内ではまだ珍しいという(関連記事1関連記事2関連記事3)。