ハンドバックやアクセサリーなどを製造・販売する米コーチの日本法人コーチ・ジャパン(東京都港区)は4月から、2つの社内資格制度を導入する。「レザー・スペシャリスト」と「リペア・スペシャリスト」である。資格を取得した社員は接客能力に秀でた専門職の道を追求できるようになる。従来は店舗スタッフであっても管理職へのキャリアパスしかなかった。同制度は日本法人独自のものとなる。

 レザー・スペシャリストは同社の革製品に関する専門知識の高さを、リペア・スペシャリストは同社製品の製造工程についての専門知識の高さを示す資格だ。日本国内に約150ある店舗に配属された勤続2年以上の正社員全員に、これらの資格を取得するチャンスが与えられる。コーチ・ジャパンはまず4月以降、2009年末までに基礎トレーニング・プログラムを全国で計数十回ほど開催する予定。ここで学習用教材を配布した後、2010年の年明け早々に筆記と実技と面接による社内選考を行う。

 2010年春には、スペシャリスト資格保有者が製品知識を生かした接客サービスを始める。65年以上の歴史を持つ同社の革製品に関する様々な情報や手入れ法などの知識と一緒に製品を購入してもらえば、顧客満足度はもちろん、同社ブランドへのロイヤルティーを高める効果も狙える。コーチが扱う中高価格帯のハンドバックは、顧客に所有する喜びを感じてもらえるような情報も製品の一部と言っていい。

 今回の2つの資格制度は、毎年定例の従業員満足度調査の結果に基づき、ビクター・ルイス代表取締役社長兼最高経営責任者(CEO)など日本法人の経営陣が導入を決めた。ルイスCEOは普段から、「会社が将来にわたって成功していくためには、たゆまぬ改善が大切であり、会社を改善するプロセスに社員が積極的に関与してくれるように経営陣は努力する」と社員に呼びかけているという。

 従業員調査では労働環境、経営、職務、社内コミュニケーションなどに関する満足度を調べる。今回は「店舗スタッフのキャリアパスを増やしてほしい」という声が目立った。ちょうど経営陣が「老舗レザーブランドとしての歴史と品質を顧客にもっとアピールしたい」と議論していたこともあって、資格制度の導入に至った。「自ら幸せを感じ、十分な教育を受けたスタッフは素晴らしいサービスを提供できる」と考えたのである。同社は現在、製品品質に対する自信を表すという意味で、無償修理保証期間を6カ月から1年に延長するプランも検討中だ。

 ルー・フランクフォート会長兼CEOが率いる米コーチの2008年6月期決算は、売上高が対前年度比22%増の31億8000万ドル、営業利益は同15%増の11億4700万ドルとなった。高級な欧州ブランド製品よりも少しだけ安価な「アクセシブル・ラグジュアリー(手の届く高級品)」と呼ぶ新市場を開拓することによって、2000年のニューヨーク証券取引所への上場以降、急速に業績を拡大してきた。日本法人の売上高は全社売上高の20%程度を占めている。