NPO法人フローレンスの駒崎弘樹代表理事は、顧客ターゲティングや市場規模の推定などのスキルを経験に基づいて伝授した
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 アメリカン・エキスプレス・インターナショナル,Inc(東京・杉並区)は社会貢献活動の一環として、NPO(非営利組織)のリーダーを対象にしたリーダーシップ研修プログラム「アメリカン・エキスプレス・アカデミー」を開催した。2009年3月12日~14日にわたる2泊3日の日程で、森林保全や引きこもりの若者の自立支援など様々なNPO法人(特定非営利活動法人)を運営するリーダー12人が参加した。リーダーシップを強化し、ビジネススキルを高めることで、NPOの持続的な成長を支援する。

 アメリカン・エキスプレスは、人事評価項目において「リーダーシップの発揮」の比重が50%を占めるなど、リーダーシップの育成に重きを置いている。今回のアカデミーは、その理念をCSR(企業の社会的責任)活動に適用したものだ。米国では2007年から社会貢献活動の柱の1つとして「明日のリーダー育成」を掲げ、NPOのリーダーや起業家の育成プログラムを提供している。日本でのリーダーシップ・アカデミーの企画、運営を担当した広報室の池原亜矢子氏は「特定のNPOに寄付をするよりも、NPOの人材育成を支援し、運営基盤を強化することが社会にとっての付加価値を高めると判断した」と話す。

NPOが発行する雑誌を街頭で販売する経験を通して「売る」ことの難しさを体感
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 日本での実施に当たっては、企業の社会貢献活動や個人の社会参加活動を支援する社団法人日本フィランソロピー協会の協力を受け、参加メンバーを選定した。同協会の高橋陽子理事長は「NPOの職員は、社会貢献への意識は高いものの、継続的な成長を支える経営や組織運営のスキルに欠けている側面が否めない。財政基盤が脆弱な団体が多く、職員の能力開発やキャリア研修を行う余力もない」と内情を話す。

 アカデミーではこうした課題を解決するため、一橋大学イノベーション研究センター長の米倉誠一郎教授の監修のもと、寄付、助成金、事業収入など様々な財源を確保するためのファンド・レイジングや、企業などへの企画提案、人材マネジメントの手法などを学ぶプログラムを提供した。ベネッセコーポレーション代表取締役会長の福武總一郎氏や病児保育のNPO法人フローレンスの代表理事を務める駒崎弘樹氏、アメリカン・エキスプレス副社長の山中秀樹氏などが、自らの経験を基に、ビジネスモデル設計や企画書作成、顧客とのリレーションシップ作りなどを指導するプログラムもあった。

意識の「たこつぼ」から自分を引き出す

「企業との共同事業」をテーマにしたグループワークに深夜まで取り組んだ
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 アカデミーにはNPOのリーダーに加え、厚生労働省や文部科学省などの公務員も4人参加した。立場の異なる参加者がチームを組んでプログラムに取り組むなかで、NPO同士や、NPOと行政の人的ネットワークを築くことも目的の1つだ。チーム活動の最初で、それぞれが自分の現在までの生き方を振り返って公開し合う「私の履歴書」作りのアクティビティを行って相互理解を深めた。夜間には企業との共同事業の提案書を作るグループワークに取り組み、研修の最終日にはNECなど実際の企業のCSR担当者らに提案のプレゼンテーションを行った。

 アカデミーに参加したNPO法人JUON(樹恩)NETWORKの事務局を務める岩下広和氏は、「これまでもNPO支援団体が主催するセミナーで提案書作りや広報活動のスキルを学んだ経験はあったが、第一線の経営者から直接話を聞くことで意識が変わる効果があった」と話す。岩下氏は自然環境の保全などを目的に、過疎化する農山漁村と都市を結ぶイベントの企画などに携わっているが、「『売る』ことへの罪悪感があり、イベントの積極的なPR活動や企業への協力要請ができていなかった」と話す。アカデミーでアメリカン・エキスプレスの山中副社長が「セールスは、一方的にサービスや商品を相手に押し付けるのではなく、相手の潜在的なウォンツを満たすこと」と話すのを聞き、「もっと積極的に売り込んでもいいんだ」という意識の転換が生まれたという。

 ほかのメンバーと企画書を作成するグループワークに取り組んだ際は、短時間で多くのアウトプットを出すスピードに圧倒されたが、「少人数のNPOでは、自分のペースで仕事ができる半面、ロールモデルがいないので生産性を高めようという意識を持ちにくい。自分の組織外の人の仕事の仕方を知るのは貴重な体験」と話す。今回の経験をJUONの財政基盤強化や業務改善に生かすほか、アカデミーのチームで策定した企業との共同事業案の実現に向け、企業に働きかけていく予定だ。

■変更履歴
本文中「NPO法人フローレント」とありましたが、正しくは「NPO法人フローレンス」です。お詫びして訂正します。本文は修正済みです。 [2008/04/03 15:30]
本文中「NPO法人JUON(樹恩)ネットワーク」とありましたが、正しくは「NPO法人JUON(樹恩)NETWORK」です。お詫びして訂正します。本文は修正済みです。 [2008/04/07 16:30]