最新ITで4強時代の競争を勝ち抜く

 医療用医薬品の卸は2000年代に入って業界の再編が加速し、200社以上あった卸はメディセオ・パルタックホールディングスとアルフレッサホールディングス、スズケン、そして東邦薬品を中心とした共創未来グループの「4強」にほぼ集約された。売り上げ規模では四番手である東邦薬品は、ITを武器に特徴を打ち出す戦略だ。東邦薬品は受発注などの基幹システムの開発から顧客支援システムのサポート部隊まで含め、総勢で約200人のシステム部員を社内に抱える。外注に頼らず、病院や調剤薬局、そして患者が望む機能をタイムリーに自社開発して提供するポリシーを貫く。

 東邦薬品のシステム投資は病院や調剤薬局といったSCMの川下にとどまらず、川上まで広範囲に及ぶ。ここ2~3年に限っても、システム案件は枚挙に暇がない。例えば、病院や調剤薬局からの問い合わせに対応しながら注文も受けるコールセンターを東西2カ所に拡充し、注文忘れを確認するアウトバウンド(東邦薬品側から決まった時間に顧客に電話をかける営業活動)による緊急配送の削減を始めた。また、同社の営業担当者であるMS(マーケティング・スペシャリスト)が出先での受注や在庫確認、価格検索に使う営業端末(1983年の初代システムから数えて5世代目)は携帯電話と一体化してコストを下げた。ほかにも物流センターでは従来からのバーコード管理に加えてICタグを併用し始め、基幹システムの東西2センター化による非常・災害時の安定供給体制も確立した。

●病院や調剤薬局が発注しやすいシステム環境を整えたうえで、確実に医薬品を配達
●病院や調剤薬局が発注しやすいシステム環境を整えたうえで、確実に医薬品を配達
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 最先端のITを果敢に取り込み、システムで常に先行する姿勢を貫く。2006年末に1億円かけてYRPユビキタス・ネットワーキング研究所(東京・品川)と共同開発した、LED(発光ダイオード)を搭載した独自の「光る無線ICタグ」は業界初の試み。現在までに1330台を導入済みで、2008年度中に3000台まで拡大する営業端末「Meissa(メイサ)」は、NTTドコモの法人向けスマートフォン「hTc Z」を採用したファーストユーザーになっている。

 ENIFに限らず、コールセンターや営業端末と多彩な受注手段を用意することで病院や調剤薬局が使いやすい方法を選択できるようにした。営業端末を除いたオンラインでの「自動受注率」は2005年末の48%から2008年3月までに56.9%に達し、業務の効率化が進んだ。いずれの経路にせよ、前日の午後8時までに注文を受けた医薬品は、7カ所の物流センターとエリアごとに合計で約250カ所ある営業所(デポ)を介し、翌日の午前中までに病院や調剤薬局まで確実に届ける体制が整っている。

 医薬品は用途が限られ、食品と違って代用が利かないし、服用を間違えると最悪の場合は死に至る恐れがある。東邦薬品は物流センターに売れ筋から稀少薬まで、常時2万種類以上を取りそろえる。該当商品の入ったかごに反応して光る無線ICタグを800個も駆使して人為的なミスを防ぎ、出荷精度をバーコードだけだった時の99.99%から99.9998%まで高めた。作業員のピッキングミスをスキルの低さのせいにはせず、仕分けを間違えない仕組み作りに注力してきた。納品する医薬品には東邦薬品がロット番号と使用期限の情報を付加し、トレーサビリティーも確保している。