音声システムの指示に従って作業する社員。言葉のなまりを機械が覚えて対応しているという
音声システムの指示に従って作業する社員。言葉のなまりを機械が覚えて対応しているという
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 「はい」「アメリカ4391・・・」「次」「ブラジル」――。IHI建機本社工場の部品部で働く社員は、入庫やピッキング、検品の作業時につぶやきながら働く。独り言ではない。音声入力の物流システムからヘッドセットを通じて届く指示を聞き、応答したりしているいるのだ。「アメリカ」はアルファベットのA、「ブラジル」はBを指す。機械が聞き取りやすいように現場で考えた工夫だ。ちなみにCは「チャイナ」、Dは「デンマーク」。数字の9とアルファベットのQは混同しやすいので、後者は「クイーン」と発音することにしている。Hは数字の1に似ているので「ハリウッド」にした。

 同社が米ヴォコレクト社製の音声入力対応の物流システムを導入したのは2008年8月。入荷や入庫、棚卸しといった業務に採用した。2009年2月からはピッキングや出荷検品へと適用範囲を広げた。従来、社員はPDA(携帯情報端末)と指示書と呼ばれる紙を見ながら倉庫作業をこなしていたが、2003年から利用していたPDAを刷新する時期に合わせて音声入力のシステムに切り替え、PDAは廃止した。基幹システムと連動しており、部品在庫の情報はリアルタイムで更新される。

IHI建機小坂克利取締役(中央)と花園啓情報システムグループ課長
IHI建機小坂克利取締役(中央)と花園啓情報システムグループ課長
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 導入に当たっては利用する社員向けの研修を実施した。システムに各自の発音やアクセントの特徴を覚えこませるためだ。システムが聞き取りにくい言葉には冒頭のようにほかの言葉で言い換えるルールも作った。社長室の花園啓情報システムグループ課長は「PDAや紙を無くすことで視線は倉庫の部品に集中できて、何も持たないので両手は空いた。作業の安全性や効率は上がった」と話す。作業の指示は耳に直接届き、終わればマイクで機械に報告して次の作業を聞く。いちいち手元の紙を見たり、PDAに入力したり、一定の作業が終わるたびに事務所に戻る必要はなくなった。

 およそ6万点を補修部品を持つ倉庫で働く社員は、50、60代の社員が中心だ。システムを利用するのは十数人。1人当たりの作業負荷を軽減するとともにベテランの経験に頼らない倉庫作業の確立を目指している。音声システムからの指示通りに動けば、経験の浅い社員でも同じように働ける状態が理想だ。小坂克利取締役は「建機ビジネスにおいて修理や部品の販売といったアフターサービスの重要性は高まっている。ミスを無くして作業品質の向上につなげたい」と話す。