見える化が改革を後押し

 配販分離と同時に導入した営業支援システムは改革を進めるうえで重要な役割を担った。担当者1人ずつの日々の活動や商品の流れを捕捉するもので、売り上げや粗利益、勤務時間、予算といった基本的な数値はもちろん、配送状況などその日の営業の全容を可視化できる。「新たな取り組みは一部の地域や拠点で試す。かんばしい成果が数値に出た時だけ水平展開につなげた」(牛丸部長)

 例えば、商品を積んだトラックが顧客の店舗を回って戻ってきた時の数量を車両残と呼んで改革進ちょくの目安にした。完全に受注に基づいた商品の積み込み・配送であれば、車両残はゼロのはず。「納品希望日の2日前に注文をください」という頼みを店舗側が聞き入れていない拠点は、車両残の数字が減らない傾向から把握できる。その拠点に聞き取りに向かい困難の理由を探る。改革を阻む理由を1つずつつぶしていくことで顧客にも現場の社員にも負担を少なくする。

 実は2004年以前にも複数回、配送と販売を分けようと試みたが、頓挫していた。今回成功した理由の1つが、この営業支援システムによる見える化であった。もう1つは配送業務のアウトソーシングだった。過去の取り組みでは拠点の社員間で配送と販売の担当を分けた。しかし、両方が社員同士だったから役割分担はいつの間にかなし崩しになった。営業所における活動とは何かをきっちりと定義したガイドラインを作り、物流コストを投じてでも社員から切り離したことで改革は軌道に乗った。

改革は三段構え

 第1段階は順調に進んだが、営業担当者の生産性が上がったといっても物流の外注費もかかっている以上、さらに改革を進めてメリットを出す必要があった。

 改革の第2段階は、ほぼ全国で配販分離が実現した2006年10月に始まる。仕分け作業を営業所から全国6つのLCに引き上げてサプライチェーンの中間在庫を減らした。それまでは、工場やLCから営業所へ必要な商品をまとめて送り、仕分けスペースで顧客ごとに商品を分けていた。

従来型の営業所は小型の物流センターを兼ねていた(左上、左下)。営業事業本部の牛丸友幸業務改革部長(右)
従来型の営業所は小型の物流センターを兼ねていた(左上、左下)。営業事業本部の牛丸友幸業務改革部長(右)

 当然、工場での生産からスーパーやコンビニに着くまでのサプライチェーンにおいて中間在庫が発生してしまう。キャッシュフローも悪化するし、営業所に注文があるまで商品がとどまるからその分だけ鮮度も落ちる。こうした理由から仕分け業務をLCに移管したのだ。営業所は原則としてサプライチェーンから外された。

 LCを持つ物流部門では、従来は営業所単位で荷物を送り出すだけだったが、店舗単位で仕分けするぶん業務が増えた。物流本部の臼井次郎物流企画部長は「大変な仕事ではあるけど、物流の全体最適を実現するためこちらも改革する」と意欲を見せた。仕分け作業を引き取るだけでなく、LCの在庫を減らす改善活動を強化した。

 その一環として、2007年5月から週に2回、全国のLCにある在庫の情報を物流・生産の担当者にメールで流し始めた。切磋琢磨しながら削減してもらう。地域ごとで物流部門の部課長クラスを集めた勉強会も開催している。話し合われた改善事例はほかの地域で報告される。「物流改革は本部の人間だけでは無理。現場と一緒になって考えたベストプラクティスで横串を刺す」(臼井部長)。成果は数字に表れつつある。改革第2段階が始まってから、中間在庫は平均で1日分減った。

 改革の第3段階としては、拠点の“オフィス化”を進めている。営業所が物流拠点を兼ねていたころは、冷蔵庫や商品の仕分け場所、トラックの駐車場が必須だった。必然的に駅前やオフィス街から離れた郊外が多かった。今後は、営業に適した物件への移転を推進する。

 一連の改革で成果を上げたとはいえ、ここ数年、BSE(牛海綿状脳症)問題や原材料・原油の価格高騰など食肉業界には向かい風が吹いてきた。伊藤ハムも2006年3月期に原料高などの原因で営業赤字に陥った。今後は配販分離を売り上げの54%を占める食肉部門へ水平展開することや生産拠点も含めたサプライチェーンの見直しが課題になる。