2008年に創業80年の節目を迎えた伊藤ハム。顧客である小売業の構造変化にともない、営業・物流の体制を見直している。営業担当者を商品配送の業務から解き放ち、商談や販促企画に注力させることで1人当たりの売上高をおよそ1.8倍へと引き上げた。

 営業担当者の仕事を楽にしたい、営業に専念させてやりたい──。伊藤ハムが4年がかりで取り組んできた改革の出発点は、つらいルートセールスを何とか改善しようというものであった。

 食肉業界の営業担当者の1日は朝早くに始まる。毎日、冷蔵庫から商品を出して自ら積み、地域の小売店をトラックで回る。店では棚の状況や売れ行きを考えて商品を補充する。商談もそこそこに次々と担当店を回る。季節ごとの販促策を考えたり、新しい陳列を提案したりといった企画業務より、トラックで大量の商品を店舗へ運ぶという体力勝負の業務になる。

伊藤ハムの代表的な商品。左から「ラ・ピッツァ マルゲリータ」「アルトバイエルン」「朝のフレッシュロースハム」
伊藤ハムの代表的な商品。左から「ラ・ピッツァ マルゲリータ」「アルトバイエルン」「朝のフレッシュロースハム」

 優秀な営業担当者ならば、なお大変になる。出荷する商品の量に応じて、仕分けや配送の手間も増える。「売れれば売れるほど体力的にきつくなる。しかも、いくら優秀でもトラックの容量以上には売れない。営業を思う存分やらせてやりたかった」と営業事業本部の牛丸友幸業務改革部長は改革の狙いを説明する。

 もっとも、内部事情だけが改革の動機ではなく、地域密着のルートセールス自体が時代にそぐわなくなりつつあった。原因は顧客側の構造変化。小規模な商店やスーパーが主な販路だった時代とは異なり、1990年代以降は巨大な物流センターを持つチェーンのGMS(総合スーパー)やコンビニエンスストアが幅を利かせるようになってきた。

 全国展開する小売業はメーカーに店舗への配送を頼まない。物流センターに納品させ、自らの物流網で店に商品を届ける。メーカーの担当者も店ごとでなくチェーン本部のバイヤーと商談する。全国に敷いてきたルートセールス網は足かせになる。営業所の統廃合で対応してきたが、根本的な解決にはならない。むしろ拠点を減らせば、担当する店舗数は同じでもエリアは広くなるので、移動距離が長くなり営業担当者にかかる負担は増す。

 伊藤ハムが配販分離を柱とする営業改革に乗り出したのは2004年。配送と販売を分離してそれぞれの効率化を図ってきた。対象商品は、2008年3月期の連結売り上げで25%を占めるハム・ソーセージと同21%の調理加工食品。2つの事業部門では4年かけて年間数億円のコスト削減に成功した。営業所の削減や1人当たり生産性向上などによるものだ。ほかにも早朝から平均午後9時まで働いていた営業担当者は午後7時に帰宅できるようになるなどの成果もあった。

 同社では、団塊世代が定年を迎えるなか、採用を抑制することで社員数を減らしてきた。そのため、売り上げはほぼ横ばいながら連結ベースの従業員1人当たり売上高は2003年の7500万円から2008年の9800万円へと伸びている。配販分離だけが要因ではないが、売り上げの半分弱を占める製品流通の改革も貢献しているのは間違いない。