とんかつを中心にメニュー展開する「新宿さぼてん」などを運営するグリーンハウスフーズ(東京都新宿区)が、女性社員を商品開発の中心に据えて業績を回復させた。2008年12月まで18カ月連続で、既存店売上高が前年同月比を上回っている。特に12月は、創業から43年で過去最高の月間売上高を記録した。

 同社は2006年3月期まで、10年にわたって毎年数パーセントずつ売り上げを落としてきた経緯がある。起死回生を狙って、2005年4月に設置したマーケティングチーム「ダンブー」が、新たな顧客ターゲットに位置づけた女性客の視点に立った商品開発とサービス向上に取り組んできた。その結果、この1年半で売り上げが回復した。

実は顧客の大半は女性だった

 とんかつを好むのは中年の男性客――。長年、同社の社員はそう思い込んできた。事実、レストランでもデリカでも、POS(販売時点情報管理)システムの上では購入者は男性客のほうが女性客を上回っている。すると社内では自然に、商品開発などの中核部署には客層と重なるベテランの男性社員が配置されることになった。

 そうした長年の「常識」を疑ったのは、2004年9月に日本マクドナルドから転じた上田実専務だ。全国に約440ある店舗を回って店長らと話したり、顧客を観察したりして、「重点顧客は男性」とする方針に違和感を覚えるようになった。そこで改めて顧客アンケートを取ったり、聞き取り調査を重ねたりしたところ、レストランでは顧客の51%が、デリカでは実に70%が女性客だと分かった。レジで財布を出すのは男性でも、商品を口にしているのは女性客のほうが多かったわけだ。

 そこで、上田専務の肝入りで立ち上がったのがダンブーである。当時、商品開発やマーケティングとは無縁だった「素人」の若手女性社員5人を女性客を意識した新商品開発に抜てきした。ただし、女性向けの市場開拓に長けたマーケティング会社の社員3人をチームに加え、8人でプロジェクトを組ませた。

 ダンブーが最初に取り組んだのは、女性客の声を拾い集めることだった。600人の女性モニターを組織し、彼女たちに毎月1~2店を食べ回ってもらった。こうした作業をミステリーショッピングの専門会社に依頼しなかったのは、商品やサービスの欠点を洗い出したいわけではなく、顧客の生の声を直接聞ける体制を作りたかったからだ。あくまでも一般消費者の目線を保つため、モニターは半年でメンバーを入れ替えている。

 ダンブーのメンバーは、ベテランの男性社員が中心だった商品開発の現場に飛び込み、最初は邪険にされながらも、「豚キムチメンチ」「やわらかロース重ねかつ」「エビグラタンコロッケ」など、従来の新宿さぼてんにはなかった新商品を、女性客の声を生かして次々と生み出していった。

 魅力的な新商品を開発しても店側が販売に協力してくれなければ、ヒットにはつながらない。ダンブーが取り組んだのは「新商品アレルギー」(上田専務)にかかっていた店長の“荒療治”だった。長年の売り上げ不振から店舗は「どうせ新商品は売れない。売れなければ、本部はすぐに取り扱いをやめてしまう。ならば、既存商品に力を入れたほうがよいのではないか」と考えてしまっていた。それでは状況は変わらない。

 上田専務は思い切って、新商品の投入を1カ月だけやめてみせた。すると案の定、単月赤字に陥る店が相次いだ。「『一生懸命、新商品を売ってください』と現場に頼むよりも、新商品を育てなければダメだということを、店舗には身を持って分かってもらいたかった」(上田専務)。

 当初は新商品開発だけを手掛けていたダンブーのメンバーは、その後販促やサービス改善にも取り組むようになった。1つの新商品が生まれてから、顧客が口にするまでを同じメンバーが一気通貫でフォローすることで、作り手の思いを現場に伝える。商品コンセプトを伝えるために特製のDVDを店員に見てもらったり、会議室に営業部隊の責任者を集めてコント仕立てで思いを伝えた。その結果が、10年続いた売り上げ減少に歯止めをかけたのだ。

 同社では、デリカで働く女性の契約社員を正社員に登用するなど、今後も女性活用による組織活性化に取り組んでいくことにしている。