アクリスジャパンの井野智恵子代表取締役社長
アクリスジャパンの井野智恵子代表取締役社長
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 スイスを代表する高級アパレルの日本法人、アクリスジャパン(東京・千代田区)は日本国内の店舗での顧客サービスを強化している。同社は2002年に設立され、現在の社員数は130人。帝国ホテル内と、高島屋日本橋店や三越日本橋店や東急渋谷店など全国18の百貨店内に、店舗を持つ。

 2009年2月、日本独自の新しい社内資格制度「フィッティング・コンシェルジェ」を導入する。この資格を取得した販売員は顧客に対して美しく見える着こなしを助言するだけでなく、カウンセリングと採寸によって身体にきれいにフィットする仕上がりのお直しを提供することができる。購入後の体型の変化に合わせたお直し業務にも、資格保有者が対応していく。

 アクリスジャパンの井野智恵子代表取締役社長は「このタイプの資格はほかの高級アパレルブランドにはない。顧客満足度を高めることができ、顧客の固定化につながる」と資格導入の狙いを語る。同制度の設計には外部の専門家の協力をあおいだ。井野社長は年2回の研修を経たうえで販売担当の全社員に同資格を取得させるだけでなく、2年ごとに資格保持試験を受けさせる意向だ。顧客にはこのサービスを無償で提供するが、制度の運用コストを考えると、1着で数十万円はする高級ブランドならではの戦略だとも言える。

 親会社のアクリスは仏オートクチュール・プレタポルテ連合協会のメンバーであり、2004年10月からはパリコレクションの期間に、公式会場であるルーブル宮殿でショーを開催してきている。コンドリーザ・ライス元米国務長官をはじめ女性政治家や女優、女性経営者など富裕層にファンが多い。しかし、ジャケットが約30万円から、ワンピースが約15万円からと高価であるのに加え、宣伝活動を控えていたこともあって、日本での知名度が低かった。そこで2007年、日本でのブランド認知度を高め、長期にわたって安定的に売り上げを伸ばすべく、多数の外資系企業でマーケティング経験を積んでいた井野氏をヘッドハンティングした。

 井野氏はアクリスジャパンへの転職を決意する前の3カ月間、当時22カ所あった直営店や百貨店内の直営売り場のうち16カ所をひそかに視察した。商品の見せ方や既存顧客への働きかけ方などに改善余地が大きい半面、商品力や顧客層に将来性を感じたという。今回導入したフィッティング・コンシェルジェ制度も、このときのアイデアの1つを具現化したものだ。

 2007年7月の就任後、まずは広告宣伝部を作り、ターゲットの再定義や広告を出稿する雑誌社との関係作りなどに着手して、一つひとつの広告の波及効果を高める取り組みをスタート。宣伝につながる店頭での商品展示方法についても、スイス本社がシーズンごとに一番売りたい商品を欠品なく仕入れる体制を築くことによって、グローバルなブランド戦略と一貫性を持たせるようにした。商品が美しく見えるよう、マネキンやダイレクトメールのデザインも刷新。「もっとも、箱だけ変えても中身が伴わないと駄目。そこで、販売担当者全員の接客スキルを高めようと、フィッティング・コンシェルジェ制度を考案した」と井野社長は話す。

 井野社長はイヴ・サンローラン、クリスチャン・ディオール、ジョンソン・エンド・ジョンソンなど著名な外資系企業の日本法人でキャリアを重ねた後、イヴ・サンローラン・パルファン・ジャパンに戻り、さらにシャネル日本法人に転職してから現職に就いた。いずれの会社でも一貫してマーケティング業務を経験してきた。井野社長の経歴で異色なのは、1999年から約1年半にわたりスターバックス コーヒー ジャパンに在籍したことだ。「それまでの3社では化粧品のマーケティング業務を担当した。そこで培ったスキルが別の商品で通用するか挑戦したかった。しかも、まだ知名度が低かったスターバックスを28店から1000店まで拡大する計画があり、わくわくした」と井野社長は説明する。

 今後は富裕層から「洋服のことならアクリスに聞け」と顧客から思われる存在になることを目指す。新制度による高度な接客力を百貨店側にも訴求することで、外商の紹介による来店客の増加も狙う。

■変更履歴
本文中「コンシェルジュ」との表記がありましたが、正しくは「コンシェルジェ」です。また、「ワンピースが約70万円から」との記述がありましたが、正しくは「ワンピースが約15万円から」です。お詫びして訂正します。本文は修正済みです。 [2009/01/30 18:30]