店員の作業を省力化

牛乳は12個入りのケースのまま売り場に陳列し、在庫はその後ろに同じくケースごと置いておく。陳列品が無くなっても、後ろのケースを引っ張り出せば、品出しが完了するので商品補充は楽だ
牛乳は12個入りのケースのまま売り場に陳列し、在庫はその後ろに同じくケースごと置いておく。陳列品が無くなっても、後ろのケースを引っ張り出せば、品出しが完了するので商品補充は楽だ
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 ほかにもプライスには随所で無駄取りの工夫がある。典型例は、補充用商品在庫を棚のすぐそばに置き店員の歩行距離を短くしたことだ。プライスでは商品棚の上部に飲料や加工食品の在庫を積んである。牛乳などの冷蔵品の在庫は陳列品の後ろに隠している。陳列棚の補充作業は棚の上や後ろから在庫を出すだけで済む。

 ヨーカ堂時代は在庫がバックルームにあったので、補充時の歩行距離が長かった。特に、建屋が古い川口店はかつて、1階にある食品売り場の在庫を、2階のバックルームに山のように保管していた。今ではバックルームの在庫スペースにはほとんど何も置かず、在庫はすべて売り場にある。ガランとしたバックルームを見たヨーカ堂の幹部が「バックルームをつぶして駐車場にしろ」と冗談を言ったほどである。

 売り場に商品在庫を積むことは、ヨーカ堂ではタブー視されてきた。見栄えがよくないからだ。プライスが実践できた裏にはディスカウントストアとしての割り切りがある。ただし、ディスカウントストアにありがちな「価格は安いが売り場はすさんでいる」状況に陥らないよう、明るく整理・整頓が行き届いた売り場作りを意識しているという。

 ほかにも、地域住民に配る新聞の折り込みチラシの配布回数を、ヨーカ堂時代の週3回から週1回に減らした。販促費を減らすだけが目的ではなく、「特売の回数を減らして、売り場変更の回数を減らす意味がある。これも店員の作業を楽にする工夫であり、発注精度を上げる工夫でもある」(渡辺リーダー)。この発想は、毎日同じ低価格を提示しながら日々の売れ行きの変動幅を縮める「EDLP(エブリデー・ロープライス)」に極めて近い。

 これらの工夫が進むにつれ、西新井店と川口店は順調に売り上げを伸ばしながらも、逆にパート社員の労働時間がどんどん減った。ヨーカ堂社内では恒例の「1カ月反省(開店の1カ月後に行う反省会議)」の資料を西新井店の開店からおよそ3週間後に作り始めた際に、「プライスの開業前に立てた2011年までの人員削減計画を、2009年中には達成できる見通しが立った。これには自分も驚いた」と渡辺リーダーは打ち明ける。既に正社員は西新井店で従来の半分、川口店では30%減となっており、人件費が下がっている。

 新業態だからといって、入念な準備や厳選されたスタッフで店舗を立ち上げたわけではない。女性主体であるパート社員の顔ぶれは基本的に業態転換前と同じだ。ヨーカ堂時代から働くパート社員の頑張りによって、業態転換は成功に導かれている。「リーダーである私が店員に新しい店舗の方向性を示し、働きやすい環境を用意してあげれば、商圏内には十分にお客様がいて、同じメンバーでも短期間でこれだけの成果を上がることを証明できた」(渡辺リーダー)と誇らしげだ。1号店と2号店の今後は、渡辺リーダーが他店に移動した後、店長がいかに現場のモチベーションを高め続けるかにかかっている。

次の課題は新しい取引先の開拓

 10店体制に向けての渡辺リーダーの次の課題は新しい取引先の開拓である。以前からヨーカ堂と取引しているNB(ナショナルブランド)メーカーからの仕入れ値をプライスのためだけに安くしてもらうことは難しい。NBメーカーはもともと、小売り大手のヨーカ堂に対してギリギリの価格を提示しているからだ。

 そこでこれまでは、NBメーカーが展開する割安なセカンドブランド商品まで扱うなどして、ヨーカ堂より安い品ぞろえを実現してきた。商品によってはメーカーから店舗に直送してもらって物流費を下げた。ただし、それにも限界がある。

 そこでヨーカ堂がこれまで取引していなかったメーカーとも積極的に手を組んで、安い商品を確保していく方針である。プライスという別業態だからこそ、それが堂々とできる。メーカーからも、プライスの仕入れ担当者に連絡が相次いでいるという。仕入れ面でもローコスト化が進めばプライスはさらに大きく拡大しそうだ。