ANAの名村剛・営業推進本部レベニューマネジメント部主席部員

 全日本空輸は旅行商品の企画立案を多様化する目的で、2008年8月から11月にかけて顧客に商品開発を委託する取り組みを実施した。主にマーケティング分野を専攻する都内の6大学の学生109人と3カ月間にわたる共同プロジェクトを展開して中国旅行の17の新商品を企画。商品は11月21日に発売した。

 全日空では通常、旅行パッケージの商品企画は企画担当者が中心となって取り組んでいる。ごく一般的な体制といえるが、営業推進本部レベニューマネジメント部の名村剛主席部員は課題を認識していた。「社内の担当者は安定した開発力を備える一方、以前の企画の枠組みにとらわれやすい面もある」(名村主席部員)。新機軸の商品を開発する際には、経験がかえってじゃまになる場合があるというわけだ。

 今回、大学生と共同プロジェクトに取り組んだ中国旅行は、とりわけ新機軸の企画が必要な分野だった。食の安全・安心を脅かす事件が相次いだり、5月に四川省で地震が発生したりした影響から、中国旅行の需要は例年になく冷え切っている。「上海のように先進国の主要都市並みの環境が整った都市でも『中国』とひとくくりに扱われて敬遠されている」(名村主席部員)。この状況を既存の商品ラインアップで打開するのは難しい。

 そこで思いついたのが、顧客の声を徹底的に聞いて商品を企画することだった。社内の担当者には無い視点による企画が生まれる可能性が高まり、企画立案ルートの多様化にもつながる。名村主席部員が自身のつてをたどってマーケティング分野が専門の教授らに依頼し、大学生の参加を募った。

「上海の高級スパ体験」など17商品を企画

 3カ月という短期間で新商品を生み出すため、周到な準備をして臨んだ。チームを組んだ学生たちをサポートするプロジェクト専用の模擬的な事業部を組織。とりまとめ役に名村主席部員が就任したほか、アドバイザーとして営業担当者や社外のコンサルタントにも参加してもらい、サポート体制を整えた。プロジェクト期間中はメールのやり取りが主体だが、企画段階や実際の商品化までの過程で合計数回、面会の機会も用意した。「新機軸の商品を作るには女性の視点が大切」などのアドバイスを実施しながら、学生たちの商品化の方向性作りを手助けしたという。

 最終的に23チームが課題を提出。このうち17件をANAは商品化した。「デジタル一眼レフカメラの活用テクニックを上海で学ぶ」「上海の高級スパを体験する」など、多くの観光地を見学して回る旅行とはひと味違う旅行商品がいくつも誕生した。

 名村主席部員は今回のプロジェクトを「企画立案の多様化や、新機軸を打ち出すという目的には一定の成果を上げられた」と評価する。一方で、学生のリテラシーに差があるためレベルに合わせた応対の手間がかかること、チームごとに進ちょく状況が大きく異なり、展開が読みにくいなどの課題も見つかった。プロジェクトの結果を客観的に評価したうえで、今後の取り組みを検討していくという。