大阪ガスは「エスノグラフィー」と呼ばれる調査手法を用いた商品開発・サービスの改善に力を入れている。もともとは文化人類学や社会学において異民族を理解するために用いられている手法だ。インタビューや観察のノウハウが消費者や社員の隠された願望や不満を掘り起こすのに役立つという。実際に、海外では多くの企業が消費者の行動調査などに活用しているといわれるが、日経情報ストラテジー 2009年2月号 特集「消費者の実態をえぐり出すマーケティング・エスノグラフィー」に取り組むに当たって、先進企業各社に取り組みを尋ねたところ、国内では同手法を学び実践している事例はまだ珍しい。

 大阪ガスのエスノグラフィーへの取り組みの中心人物である情報通信部の松波晴人課長は「属人的な勘と経験に頼ってきたサービスの改善につながる」と語る。松波課長は米国留学から帰国後1人で2001年から社内で実践を開始。その成果が認められ、同社は2005年からエスノグラフィーに基づく調査サービスを外販するなど本腰を入れ始めた。

 大阪ガスはこうした取り組みを「行動観察調査」と呼んでいる。調査を外販した案件の中には、メーカーからの依頼で、商品が小売店の店頭でどう消費者の手に取ってもらえているかを調査しパッケージの改善に生かした事例などがあるという。

 大阪ガス自身には、商品を販売するイベント会場で、来場者が商品ポスターの前に立ち止まるように仕向けるため植木の位置を変えることで、その商品の売上高を3倍に伸ばした実績がある。また、あるセミナー会場では、受講者のしぐさを観察。受講者のしぐさと、講師の発表の撮影内容を照らし合わせて分析することで、プレゼンテーションの進め方やセミナーの運営方法の改善点を見つけ出したという。

 課題は調査に時間や労力を大きく取られることだ。同社では行動解析ソフトウェアを活用したり、基礎的な観察やインタビューのノウハウをグループ会社に展開して組織的に取り組んだりすることで対処している。

 新商品の開発などにあたって熱心に消費者の行動観察を行うのは珍しくない。文化人類学の分野で培われたエスノグラフィーに学ぶことで、漫然としがちなインタビューや観察を、新発見を得る手段として改めて強化したいという期待がかかっているようだ。2008年に日本能率協会や博報堂らが中心となってエスノグラフィーをテーマにしたセミナーを開催したところ、大手企業の研究開発や商品開発の担当者らで盛況になった。不況下で消費者へのアピールが難しくなるなか、心の奥の願望や不満をえぐり出す手法としてエスノグラフィーは今後脚光を浴びそうだ。