高品質と生産性の高さをTPMで両立

 2000年以降、シモンズには流通サイドから「当社だけのオリジナル品を作ってほしい」との声が寄せられるようになった。ヘブンリーベッドもその1つだ。今や生産全体の70%はチャネルごとの独自規格が占める。多品種小ロット生産が当たり前になった。そのため川窪取締役は「当社のものづくりを根本から変えなければ対応できない」と判断。親会社のニフコが1990年代後半から取り組んできたTPMに目を付け、シモンズに持ち込んだ。

 TPMは従業員が自分自身で生産設備をメンテナンスできるように装置の中身を理解し、現場改善を進める取り組みである。この発想はシモンズに全くないものだった。長年シモンズは米社が用意した大型装置でマットレスを生産してきた。頻繁に故障したが、そのたびに米国の装置メーカーに修理を依頼し、膨大なコストと時間を浪費してきた経緯がある。事後保全ばかりで予防保全に頭が回らない。装置の中身がブラックボックスであることを言い訳にして、自分たちで使う設備は自分たちで直すという意識を持たずにきた。

 その事実が露呈したのは、TPMの名物行事である赤白の「エフ札」の取り付け時だ。TPMの講師から「自分たちで直せる不具合には白、装置メーカーに頼まなければ直せない不具合には赤のエフ札を装置に付けてみなさい」と言われると、従業員は赤エフ札ばかりをぶら下げ始めた。故障を他人のせいにしている証拠である。講師からは「自分たちで装置の中身を勉強する意識さえ持てば、札の色は赤から白に変わるはずだ」と指摘され、目が覚めたという。それまでは細かい布の粉塵が飛び交う工場内の環境にも誰も疑問を持たずに、マスクをして作業を続けてきた。だがTPMを始めると「それはおかしい。改善すべきだ」とマスクレスへの知恵の出し合いが始まっている。今ではマスクをしないのが当たり前の状態になった。

「ポケットコイル」を並列に敷き詰めたマットレスを生産する座間事業所(神奈川県座間市)では、2000年からTPM活動が進む
「ポケットコイル」を並列に敷き詰めたマットレスを生産する座間事業所(神奈川県座間市)では、2000年からTPM活動が進む

 シモンズはニフコの工場見学に始まり、自主保全活動や赤エフ研究会、故障ゼロ化活動、機械保全技能士の育成、工場内の安全パトロール、そして改善自慢大会と次々に現場改善を推進。2000年には月6900件もあって慢性化していた10分以下の装置停止(チョコ停)を、現在までに月990件と約7分の1に減少させた。同じく故障件数は月129件がゼロになったほか、国外での修理もゼロになり、国内で用意した部品で100%自主保全できるようになった。現場で「エフ付け」した札の累計枚数は約1万2000枚に達していたが、そのほとんどは自分たちで解決して「エフ取り」を完了。ついには自分たちで新しいポケットコイルの製造装置を作ってしまったほどだ。シモンズの従業員たちはひそかに「米シモンズの品質を超えた」と胸を張る。