ヘブンリーベッドとギャラリーで体感

 シモンズの潮目が変わったのは2002年のことだ。この年、東京・恵比寿にあるウェスティンホテル東京が「雲の上の寝心地」をコンセプトに命名した独自の「ヘブンリーベッド」を設置し始めた。ウェスティンホテル東京の関一博ショップ&ワークアウトジムマネジャーが「我々は高級ベッドでホテル業界をリードする」と語るように、今やホテルの客室はベッドが主役になってきている。ヘブンリーベッドは米ウェスティンと米シモンズが共同開発したもので、日本に設置しているものはウェスティンホテル東京と提携して日本のシモンズが生産する。ヘブンリーベッドはほかのホテルとの差異化要因になっており、ベッドの違いを理由にウェスティンを指名する固定ファンがつき始めている。

 中には寝心地に感激し、「ベッドを売ってほしい」とウェスティンに願い出る顧客まで現れるほど。今ではウェスティンだけで1年に250~300台のベッドが売れていく珍現象まで巻き起こり、結果としてヘブンリーベッドがシモンズの名まで広く国内に知らしめることになった。この評判が競合ホテルにも伝わり、シモンズベッドの採用に拍車がかかった。ヘブンリーベッドのおかげで、業務用と一般用のベッドが同時に売れ始めたのだ。

 ベッドは典型的な体感型の商品である。寝てみないと良さを理解できない。安くても10万円以上するシモンズのベッドをカタログを見ただけで購入するのは勇気がいるだろう。その意味ではホテルに宿泊して寝心地を気に入ったら買うのが確実で、かつ手っ取り早い方法といえる。ヘブンリーベッドはウェスティンか三越でしか買えないが、通常のシモンズベッドなら島忠などの家具専門店や大手百貨店、通販などで購入できる。

都内にある「日比谷シモンズギャラリー」では専任スタッフにベッドの説明を受けながら寝心地を体感できる。ここには毎月2000人の見込み客が「試寝」に訪れる
都内にある「日比谷シモンズギャラリー」では専任スタッフにベッドの説明を受けながら寝心地を体感できる。ここには毎月2000人の見込み客が「試寝」に訪れる
写真撮影:北山 宏一

 シモンズは今、もう1つの体感手段に力を入れている。国内5カ所にある「ギャラリー」の開設だ。約100坪(1坪は3.3m2)の室内に20台程度のベッドがあり、誰でも自由にポケットコイルの感触を体験できる。週末には百貨店にギャラリーを開放し、外商担当者がお得意様をギャラリーに招待してベッドを紹介。その場で数十組の商談をまとめ、数百万円を売り上げることも珍しくない。ギャラリーは家具売り場の縮小が続く百貨店の店舗事情を考慮した販売機会の創出になっている。シモンズはギャラリー運営の裏方に徹し、販売は提携先に任せて流通との協力体制を強固なものにした。

 人気沸騰のシモンズベッドは、すべて神奈川県の座間事業所で生産している。以前は生産設備に余裕があったが、今は需要が急増して生産改革が待ったなしだ。そこで2000年1月に始めたのがTPMである。TPMのおかげで、品質を保ちながら生産能力を以前の月8900台から同1万4900台まで1.67倍に高めた。2000~2007年の累計のコスト削減額も15億円を超えた。川窪義寛・取締役生産本部長は「2000年にTPMを始めていなければ、今のシモンズはなかった」と振り返る。2004年11月にはTPMの専門団体である日本プラントメンテナンス協会から「TPM優秀賞第2類」に選ばれた。