吉田忠雄氏の生誕100年イベントに携わったYKKの菅谷友子人材開発企画グループ長(左)と寺田弥司治常務(中央)、経営理念の研究活動に当たっている経営企画室の井深緑広報グループ長

 ファスナーや建材などを手がけるYKKグループは、創業75年目となる2009年に向けて、社員の帰属意識の醸成に力を入れている。創業時からの経営理念を明確にして全社員で共有を図る。

 2008年9月18日には社員OBを、創業者の故・吉田忠雄氏の生誕100年の翌19日には顧客や取引先など200人を、黒部事業所(富山県黒部市)で開いた記念式典に招いた。両日ともに運営を外部のイベント会社などには任せず、会場の設営や警備、来賓の案内などを社員が担当した。

 グローバルで4万人に及ぶ社員らは9月19日、経営理念を説くDVDを鑑賞する「4万人フォーラム」を行った。参加率はおよそ97%で、30数カ国語で書かれた感想文は英訳して東京本社に集めた。また、識者らによるパネルディスカッションやOBらへのインタビューを収録した記念書籍も同月出版した。

「善の巡環」などの理念を再確認

 経営理念の共有を強化したきっかけは2006年3月に実施された「次世代リーダー研修」だ。2004年から毎年40歳前後の社員25人ほどが参加している。この年の研修のグループ発表で、あるグループから企業風土改革についての提案がなされた。吉田氏が亡くなってから15年が経ち、直接薫陶を受けている社員の数は少なくなっていた。「他人の利を図らずして自らの繁栄はない」を意味する「善の巡環」をはじめとする創業者が説いた理念を知らない若手社員も増えてきた。

 グループ人事企画センター長の寺田弥司治常務は「創業者の人生や考えをまとめた書籍が1990年代までよく出版されていて社員が目にする機会は多かったが、それ以降は経営理念を確認・継承するという作業は途絶えていた」と語る。そこで研修で企業風土改革を提案した6人に事業部門の社員を加えた10人で「コアバリュープロジェクト」が2006年7月にスタートした。

 プロジェクトの目的は「YKKらしさを明確にして、全社に浸透させること」だ。役員へのヒアリングや、30代前半の社員150人が参加したワークショップ、社員研修でのディスカッション、アンケートなど様々な機会から各社員が考える“YKKらしさ”を拾い集めた。そして、候補を15の言葉に集約して、2007年5~6月に「YKKらしさを強く感じる」「普段心がけている」「創業100年目に残しておきたい」という観点からグループ社員1万5000人に3つずつ選んでもらうアンケートを実施した。

 結果を踏まえて2008年4月、「失敗しても成功せよ 信じて任せる」「品質にこだわり続ける」「一点の曇りなき信用」という3つのコアバリューを制定した。各社員のエピソードを盛り込みながら3つを説明する冊子「コアバリューブック」も全社員に配った。非上場のまま独特の経営を続けるYKKは、若手社員への大胆な権限委譲や「土地っ子」と呼ばれるような10年を超す海外拠点での長期滞在などの企業文化を持つ。一連の活動を通じて自社の企業文化の良さを見直し、「グループの一体感を高めて今後の事業の基盤にしていく」(寺田常務)考えだ。