同じ色合い、風合いを忠実に再現

 さらに、ITを活用して微妙な色落ち感や風合いを忠実に再現する能力も高い。綿の繊維の品質から、縫製したジーンズを洗った際にどれくらい色落ちするかといった点まできめ細かくデータ化。このデータを活用することで、同じ色合いや風合いのデニムを安定的に製造できる。

 再現性の高さはジーンズメーカーに対する武器となる。売れ行きが良いモデルの追加注文に即座に応じられるからだ。企業戦略に詳しい一橋大学大学院国際企業戦略研究科の大薗恵美准教授も、「まとまった数量を販売するカジュアル系ブランドとの取引で威力を発揮する」と評価する。同研究科は独自性の高い戦略で業績を上げている企業を表彰する「ポーター賞」を毎年数社に授与しているが、カイハラも2007年度に対象企業に選ばれた。

 品質管理やトレーサビリティーにもITを生かしている。例えば、製品出荷後の洗い加工で意図通りに仕上がらなかった場合、工程ごとに切り分けて原因を究明するのに活用している。

 カイハラは複数の工場を抱えるが、すべて広島県内にあり、工場間の距離は100km以内に収まっている。工場同士を近接させる理由は、各工程の従業員の意思疎通をしやすくするためだ。貝原社長は「風合いの微妙な差異を正確に理解するには、各工程の担当者が一堂に会して現物を見ながら確認することが欠かせない」と説明する。

 最近は工場を近接させる方針をさらに進め、1つの工場の敷地内に複数の工程を集約している。その象徴的な存在が、9万m2の山林を自ら造成して稼働させた三和工場である。現在は、同社で最大規模の織布工程が稼働しており、この8月には紡績工場が完成する。「増産などで人手不足に陥った工程に、ほかの工程の担当者が応援に入れるようにしたい」と貝原社長は言う。将来は従業員の多能工化も視野に入れている。

同族だからできる長期的な視点の経営
貝原 潤司 社長
貝原 潤司 社長
かいはら じゅんじ氏●1949年8月生まれ。74年、南カリフォルニア大学経営大学院経営学修士課程修了。同年に貝原織布(現カイハラ)入社。2003年に代表取締役社長
写真撮影:平田 宏

 同族企業である当社の強みは、短期的な業績よりもデニムの製造に有利かどうかという長期的な視野に立った投資がしやすいことだ。

 一貫生産を選んだのも長期的な視野に立った意思決定の1つ。1970年にデニムの染色工程に参入して以降、78年に織布、80年に整理加工、さらには91年に紡績へと手を広げてきた。紡績の参入では無謀という批判も受けた。それでも取引先の要望を満たす質の高い生地を安定的に作るには、品質の高い糸を作らなければならないと決断した。

 設備投資の考え方も同様で、あえて従業員数から見て25%ほど余剰に設備を抱えている。大手取引先からの大量発注にも即応できるようにするためだ。原材料の綿花は割安と判断すれば2年分をまとめて買い付ける。コスト競争力を高めるためだが、一時的には莫大な費用がかかる。4半期ごとの業績開示が求められる上場企業では難しいだろう。

 現在は次代を担う人材の確保に力を入れている。例えば、服飾・デザイン学校からの依頼に応じ、授業に利用するテキスト教材の作成に協力している。また、デニムメーカーが何をやっていて、どんな人が働いているのかを講演している。活動を通してデニムファンの育成につながればいいと考えている。