紡績・染色・織布・加工を垂直統合

 東京の営業担当者がマーケティングに力を入れる一方、福山市の本社と周辺の工場は強い現場作りに力を注いでいる。それが2つ目に挙げた一貫体制を取る工程でのITを活用した生産管理力だ。

 カイハラは1991年、当時は分業化が一般的だった繊維業界では珍しく、デニム製造の主要な4工程である紡績・染色・織布・整理加工を垂直統合した。商品の幅を広げる多彩な表現力を実現するのに欠かせなかったからだ。「デニムの色合いや風合いの微妙な違いは各工程で様々な手を加えることで作り出せる」と貝原社長は話す。

カイハラの工場の織布工程(写真上)。従業員が施した設定に基づいて機械が自動的にデニムを織り上げる。糸をインディゴ色に染める染色工程(写真左)。カイハラのデニムを使ったエドウインのジーンズ(写真右)
カイハラの工場の織布工程(写真上)。従業員が施した設定に基づいて機械が自動的にデニムを織り上げる。糸をインディゴ色に染める染色工程(写真左)。カイハラのデニムを使ったエドウインのジーンズ(写真右)
写真撮影:平田 宏(写真上中央)

 例えば紡績工程であれば、数種類の綿をブレンドする割合によって糸の性質が変わり、染色工程では使う染料の色や濃度によって変化を出せる。このように工程ごとに異なる手法をかけ合わせ、年間800種のサンプルを作り上げる。

 色合いや風合いのきめ細かな差異を作り出す作業は、主に染色と加工の工程で実施する。紡績と織布の工程は複数商品の仕様をできる限り共通化し、中規模のロットで生産している。両工程は作業が複雑なため、段取り替え作業を減らして生産性を高め、コストの増大を抑えている。

 2005年に稼働した三和工場(広島県神石高原町)は生産性を向上するため、新たに自前で設計した織機を導入した。6000ヤード(約5486m)、重量にして3トン分の糸を2台で織れる。従来機の1.5倍に相当する能力で、これだけ大規模な織機は世界でも珍しいという。新型織機の効果は著しく、「1人当たりの生産量が約40%向上した」(製造子会社のカイハラ産業の高橋栄利織布部長)。

 工程ごとの役割分担によって、多彩な表現力とコスト競争力を両立させている。エドウイン商事の小林専務も「同等品質のデニムで比較するとカイハラのコスト競争力は高い」と評価する。

 一貫体制は製品の品質の最適化や歩留まりの向上にも有効だという。良質のデニムを製造するには、品質の優れた糸の確保が欠かせない。カイハラは自社で定めたデニムの品質基準に合った糸を自ら紡績している。また、織布工程で糸が切れるトラブルに見舞われた際は前工程にフィードバックし、糸の品質を調整して歩留まりを高めている。

●ITで各工程の作業を一括管理することで多様な色合い・風合いを自在に作り出す
●ITで各工程の作業を一括管理することで多様な色合い・風合いを自在に作り出す
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