乃村工藝社の栗原稔・専務取締役経営管理統括本部長
乃村工藝社の栗原稔・専務取締役経営管理統括本部長
写真撮影:山西 英二

 商業施設の設計・施工大手の乃村工藝社は2008年9月、社員の能力を見える化する社内展示会「ノムラ・クリエイターズ・ポートレート」を開催した。開催の目的は、従業員間の競争意識の向上と、部門横断型のチーム活動を促進することである。

 デザイン、プランニングに携わる正社員と契約社員の約300人が、仕事に対する思い入れやこれまでの業務で上げた成果を、規定サイズの用紙に表現。これらをすべて本社地下のスタジオに展示し、社内で公開した。

 今回のノムラ・クリエイターズ・ポートレートを企画したのは、2008年2月に活動を開始したクリエイティブ戦略部。複数の事業本部をまたぐ横断的な活動を推進する部門として発足した組織だ。

 こうした動きの背景にあるのは、顧客ニーズの多様化。同社は顧客に業種別に対応する組織体制を敷いている。商業施設や博覧会、博物館、公共施設など、プロデュースを請け負う対象や施設、業種ごとに異なるニーズに応えてきた。しかし最近は、博物館がショーの演出を依頼するなど、既存の枠組みを超えるニーズが増加してきた。クリエイティブ戦略部が発足した裏には「各部門のいいところ取りをした横断型のチーム編成が必要」(栗原稔・専務取締役経営管理統括本部長)との判断があった。

中川雅寛・クリエイティブ戦略部長
中川雅寛・クリエイティブ戦略部長
写真撮影:山西 英二

 クリエイティブ戦略部の中川雅寛部長は「同じ会社に所属しながら、パーティション(間仕切り)の向こうにいるデザイナーがどのようなデザインをしているのか、現場が十分に把握できていない」という課題を認識していた。この状態では、営業担当者が取引先から要望を聞き出しても、社内のクリエーター集団を生かし切れない。それぞれの人材の実力を棚卸しする機会を設けようと、今回の展示会を企画した。

 当然ながら、企画を成立させるにはクリエーター集団の参加が欠かせない。なかなか課題を提出しないクリエーターもいたが「一人ひとりに直接会って自分自身を表現してほしいと訴えかけた」(中川部長)。夜間の面会もいとわない中川部長の姿勢が、クリエーターの制作意欲や競争意識に火を付け、最終的な提出率は94.2%に達した。

 実は今回の社内展示会が商談にも役立ったという。展示会を催した地下スタジオは1階から様子を確認できるようになっており、同社を訪問した取引先が展示会の様子に目をとめて入場を希望した。「展示によって当社がオフィス空間のデザインを手掛けていることを初めて知り、新たに自社オフィスのデザインを希望してくれた顧客がいた」(中川部長)。同社の事業領域の幅広さを顧客に分かりやすく伝える機会にもなったわけだ。