購入動機やライフスタイルを20分類

 具体的にはライフスタイルを表す「お手軽健康系」「時間節約系」といった20種類の商品DNAを決め、食品を中心とした1万数千点の商品に特性を付与した。例えば、継続して飲めばコレステロール値を下げられるお茶には「お手軽健康系」という商品DNAを付ける。さらに、こうした商品を一定量購入する顧客も「お手軽健康系」に分類する。

オギノ・菱食のプロジェクトチーム。(上段左から)櫻井尚氏、矢矧晴彦氏、(下段左から)石原みどり氏、飯野弘俊氏、原正浩氏
オギノ・菱食のプロジェクトチーム。(上段左から)櫻井尚氏、矢矧晴彦氏、(下段左から)石原みどり氏、飯野弘俊氏、原正浩氏

 「分類は理論的にはいくらでも細かくできるが、分析や売り場で生かすには絞り込む必要があった」(矢矧ディレクター)。最初にこの20種類を決めるために、オギノは蓄積した購入履歴データを「クラスター分析」という統計手法で処理して、購入商品の傾向からクラスター(固まり)を探った。この際、購入動機を画一的に判断せず、商品分野ごとの購入動機に着目したのがポイントだ。例えば「品質にこだわる人」も、いくつかのクラスターに分かれる。「基本的に高品質の商品を買う」クラスターと、「(子供も口にする)生鮮食品は国産など品質重視で選び、(お父さんしか飲まない)酒類は品質にこだわらず安い物を買う」クラスターは区別する。後者のクラスターの人に「高級ワイン」を薦めても意味がないからだ。

 この分析基盤を生かした具体的なアクションとして、個店単位の最適な品ぞろえと、冒頭のように対象顧客を絞ったクーポン発行がある。

 まず、店舗ごとに20の顧客クラスターの分布を集計した「店舗プロフィール」を作成。プロフィールは店舗ごとにかなり違う。商圏の世帯家族構成や競合店の存在などに差があるからだ。変化の激しい人口構成や競合状況を分析するのではなく、品ぞろえに直結する顧客クラスターをつかむのがオギノ流の手法だ。

「店舗プロフィール」に応じ品ぞろえ最適化

 オギノ国母店(甲府市)は郊外にあり、高齢化が進んだ中心市街地に比べて、商圏には若くて忙しい子持ち世帯が多い。この店舗プロフィールに合わせた品ぞろえが見られる。例えば、カット済みの玉ねぎと、「玉ねぎがあればすぐできる」と表示した「エビチリの素」が隣り合わせに並んでいる。自炊しておいしい物を食べたいが、野菜を切る手間はかけたくない「時間節約系」クラスターの顧客比率が高い。この陳列を始めてから、カット野菜と中華の素の売り上げは2~4 割増えた。

 柔軟な陳列の前提条件として、菱食と共同で運営する最新鋭の物流センターが重要な役割を果たす。棚に並べる順番に、自動発注されたその日の必要数だけ仕分けした形で出荷。店ではこれを並べるだけで済む。

 もう一方のクーポンでは、対象顧客のレシートに印刷する方式と、約40万人のうち5万~10万人程度を抽出してDMを送付する方式を実施。年間約250 種類を発行する。「お手軽健康系」の人に健康増進効果があるとされる水飲料を薦めるなど、商品DNAを参照してその商品を好みそうな顧客に限ってクーポンを提供する。

 「単なる特売合戦では、(購買力に勝る)全国チェーンに負ける」(飯野弘俊執行役員)。不特定多数の人への特売とは異なり、狙った顧客だけに値引きを提供できる。レシート・DMともに発行数のうち実際の利用率は30~40%。不特定多数の人にクーポンを出した場合の一般的な利用率が数%にとどまるのに比べてかなり高い。

 クーポンは新商品の販促に威力を発揮する。例えば、2006年に発売されたカゴメの植物性乳酸菌飲料「ラブレ」のクーポンを「お手軽健康系」などのクラスターの顧客だけに提供したところ、利用者のうち40%以上が1週間以内に再購入した。

 さらに、買い回り促進にもつながった。オギノは酒専門店に押されて酒類の売り上げが少なかったが、ここ数年で4割伸びた。オギノで酒を買っていなくても、つまみを多く買っていれば飲酒者クラスターに分類。酒を買っている人はさらに「ビール党」「焼酎なども飲む人」に分類してそれに応じた酒のクーポンを出した結果だ。

 飯野執行役員は「物流センターは売上高1000億円程度まで対応可能。2時間輸送圏では埼玉県や千葉県の一部までカバーできる」と、県外進出の意欲を隠さない。独自のCRM手法はその大きな武器になりそうだ。