大規模工事に慣れた社内では、「小口は儲からない」という冷ややかな声が多かった。小口修繕は新築時の施工業者が“サービス”で実施するのが業界の常識。それでも大竹社長は「小口修繕は作業者が各所に分かれているから効率が悪いが、IT(情報技術)を活用すれば事業にできる」と主張した。

 又兵衛のこれまでのIT投資額は約20億円に上る。ただし、当初は大竹社長の目論見通りにはいかなかった。2000年ごろの初期システムでは、作業者がバーコードリーダーと分厚いバーコード帳を持ち歩き、「A社製の」「便器の」「詰まりを修理した」といった情報をそれぞれバーコードで読み取って入力するなど手間がかかった。

 2004年に、安価になったカメラ付き携帯電話を導入。冒頭で示した、撮影した写真をそのまま作業進ちょく管理に使う仕組みにして、システム活用が軌道に乗り始めた。「ITの発達がなければ、又兵衛のビジネスモデルは成立しなかった」(大竹社長)

「なおしや又兵衛」が手がける東京都内のビル室内改装工事現場の様子。クラフトマン(作業担当者)が壁や床の張り替えを進める一方で、カメラ付き携帯電話で状況を撮影して情報管理システムに入力する
「なおしや又兵衛」が手がける東京都内のビル室内改装工事現場の様子。クラフトマン(作業担当者)が壁や床の張り替えを進める一方で、カメラ付き携帯電話で状況を撮影して情報管理システムに入力する
写真撮影:北山宏一

 実際に施工するのは、地場の工務店や電気設備店など約280社のパートナー企業のクラフトマンだ。パートナーにしてみれば、写真で作業内容がすべてガラス張りになるため、ごまかしがきかない。常泉修・エンジニアリング本部第三グループ長は「小口の仕事も嫌がらずにこなし、『情報をオープンにする』という当社の理念に賛同してくれるパートナーを徹底して探した」と話す。

セブン-イレブンに鍛えられて成長

 「初めはうちのビジネスをよく理解していないのではと危惧した」。セブン-イレブン・ジャパンの笠田弘・建築設備本部建設部総括マネジャーは、2000 年ごろ大竹社長に初めて会った時の印象をこう振り返る。24時間営業している店舗で作業をする際、来店客の邪魔になってはいけない。笠田氏はレジカウンターに職人が土足で上がってFC(フランチャイズ)店オーナーから激怒される、といった失敗を乗り越えて修繕業務を確立してきた。笠田氏には、大竹社長がそんな苦労を何も知らないように見えた。

 こうした不安をよそに、大竹社長はセブンの要求を素早く実行に移した。クラフトマン向けの教育ビデオを作って、来店客の邪魔にならない作業手順を徹底。「壁のはがれを直す」といった細かな作業でも作業報告書を形に残し、費用負担に対するオーナーの納得を得やすいようにした。「大竹さんは、言えばすぐに必要性を理解してくれる」(笠田氏)。笠田氏は10店舗でのテスト導入で手応えを感じ、その後、全店展開を進めた。

 サーバーに蓄積された過去の作業報告データはセブンの店舗改良にも生かされている。例えば、カウンター内の洗い場で蛇口の故障が頻発していた。作業報告を分析すると、蛇口の特定部位が壊れやすいことが明らかになった。「生データは説得力がある」(笠田氏)。蛇口メーカーに製品自体を改良してもらった結果、蛇口の故障はほぼなくなった。又兵衛はほかの法人顧客にも、その店舗に応じた改善提案をして信頼を得ている。