ビルや店舗などの修繕サービスを手がける「なおしや又兵衛」が急成長している。2000年に準大手ゼネコン、前田建設工業の社内ベンチャー事業としてスタート。積極的なIT(情報技術)投資の負担に耐え、2006年3月期から黒字化した。カメラ付き携帯電話を使って修繕作業の工程を“見える化”し、生産性を向上。セブン-イレブン・ジャパンの厳しい要求に応え、ほぼ全店の修繕を引き受ける。

 2008年4月、東京駅前にあるオフィスビルの1室で改装工事が行われていた。5人ほどのクラフトマン(作業担当者)が壁や床の張り替え、清掃などを手際良く進める。ありふれたビルの改装風景だが、「なおしや又兵衛」というロゴが入った作業服を着た1人のクラフトマンが、作業状況をカメラ付き携帯電話で撮影しているのが目に付く。工程ごとに作業開始前と開始後の写真を撮影し、事務所のサーバーに送信する。この写真は事務所で進ちょく状況の把握に使うだけではなく、ビルオーナーへの作業報告書にもそのまま添付する。

ダム工事の非効率さから“反常識”の着想

 ビルや店舗、住宅などを対象とした小口の修繕サービス「なおしや又兵衛」を運営するJM(東京・千代田)は準大手ゼネコン、前田建設工業の100%子会社。部屋丸ごとの改装からトイレの水漏れ修理まで幅広く、1日200件前後、年間約7万件の作業をこなす。料金は1件数千円からで、平均10万円強と低い単価ながら、年率10%以上のペースで急成長。2008年3月期の業績は売上高86億円、経常利益5500万円だった。

●JM(なおしや又兵衛)の会社概要と業績推移
●JM(なおしや又兵衛)の会社概要と業績推移

 セブン-イレブン・ジャパンのコンビニエンスストアやユニクロのほぼ全店で、日常的な修繕を一手に引き受けていることでも知られる。最近では2007年秋から2008年春までの半年間に、全国の約3000のセブン店舗へのフライヤー(揚げ物調理器)導入工事を一気に進めた。

 又兵衛は2000年、社長の大竹弘孝氏が前田建設のリテール事業部として立ち上げた。名称は創業者・前田又兵衛氏の名から取ったが、営業活動は独自に進める。2007年4月にJMとして独立した。

 大竹社長は前田建設時代、数百億円規模の大型ダム工事を手がける現場監督を務めていたが、ある疑問を抱いた。「広大な工事現場では毎日 3000~4000人がバラバラに分かれて作業をしている。作業の進ちょくを記録するのに、いちいち工事事務所に戻るのは効率が悪い。だから利幅も薄い」。大竹社長は作業者間の情報伝達を円滑にして、工場のように管理プロセスを標準化すれば、もっと効率的になるはず、という理想を描いた。

 そんな時、本社の総合企画部に異動し、公共工事の減少を埋める新規事業を開拓するという課題に取り組んだ。大竹社長は「ダムではなく、小口の修繕サービスなら作業管理も標準化できるし、受注産業だった従来のゼネコンとは異なる事業モデルを確立できる」と考え、又兵衛を立ち上げた。