全国に9工場を抱えるキユーピーの生産本部は2007年度から、製造現場を支える本社や工場の間接部門で業務改善に意欲的に取り組む機運を高める活動を始めた。トヨタ生産方式の思想を基に開発されたIT(情報技術)ツール「HIT」を活用、初年度は延べ1万3692時間の作業を削減できた。

 「製造現場と違い、間接部門は仕事の全体像がなかなか見えず、自分の無駄に気づきにくい。HITツールで多数の業務プロセスを図示化し始めたら、1年ほどで自分の仕事の意義や自分の仕事の前工程や後工程とのつながりの大切さを実感できるようになり、改善に意欲的に取り組む職場が増えた。このままいったら仕事の質はどこまで高まっていくのだろうと、楽しみになってきた」

 キユーピーの勝山忠昭取締役生産本部長はこう言って目を細める。例えば仙川工場(東京・調布市)の5つの間接業務部署。HIT活動の進展に合わせ、各人の週間予定を張り出すボードを部署ごとに独自の工夫を凝らして作成し、定常業務や改善活動の予定を詳細に書き込んでいる。多くの定常業務を整理したため、改善活動の時間を捻出したり、細かな計画を立てたりできるようになった。

 HITはトヨタ生産方式(TPS)をモデルにシステム科学(東京・文京)が開発したITツール。業務プロセスを「情報」の流れに沿ってフローチャート化し、不要な工程を削って作業を効率化する。

 キユーピー生産本部ではHITを使った間接業務の改善活動の目標値を「時間」で立てる。本格的に活動を始めた2007年度(2007年11月期)の年間削減目標は1万2000時間だった。間接部門の約500人のうち125人をHIT活動の初年度の参加者と想定、その勤務時間の5%が削減目標時間に相当する。結果的には431件の改善に着手し、延べ1万3692時間分の作業を削減できた。

●9つの工場を抱えるキユーピーの生産本部はトヨタ生産方式を土台としたツール「HIT」を使い、間接業務の改善活動を活性化
●9つの工場を抱えるキユーピーの生産本部はトヨタ生産方式を土台としたツール「HIT」を使い、間接業務の改善活動を活性化
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 社員の平均年収などから人件費の削減効果を推測すると、4000万~5000万円に達するとみられる。生産本部の間接業務は総務だけでなく、原資材調達や生産技術、生産管理なども含まれ、出荷リードタイムの短縮、物流費や調達費の削減、ペーパーレス化などにもHIT活動は寄与した。つまり、コスト削減効果はもっと大きい。勝山取締役は「活動の狙いは仕事の質の向上だ」と言い切るが、業績上の効果もしっかりと出ている。

 HIT活動が先行し、他工場から手本とされる機会の多い仙川工場の篠原真人工場長は「品質保証や情報漏えい対策など、間接業務は社会的要請で膨れ上がる一方。定常業務から無駄を無くし時間を生み出すのは大切だ」と、現場の挑戦意欲を促す目標として「時間」を掲げる意義を強調する。