無駄を取るのではなく、「夢多゛を採る」

 仙川工場と同様にHIT活動が進んでいる中河原工場(東京・府中市)の事例を1つ見てみよう。同工場の業務課では2007年10月から、同じ敷地内にあるグループの物流会社、キユーソー流通システム(KRS)を活動に巻き込み始めた。業務課は工場全体の生産計画や運営を担当する部署。同部署の齊藤真寛氏はHITの試験導入期間に活用スキルを身につけ、活動に意欲的に取り組んできた。

 齊藤氏は4カ月にわたり週1回ずつシステム科学の指導を受け、通常業務をしながら自分の業務を次々とチャート化した。最初は4次業務の区切りや適正な作業時間が把握しづらかったという。現在はコツをつかみ、HITツールを搭載したパソコンを持って自分の前後の工程の部署に行き、ヒアリングしながらチャートを書くこともある。「HIT活動のおかげで他部署に足を運びやすくなり、改善の気づきも増えた。みんなでチャートを見ながらどうしたいかをわいわい話している」

 齊藤氏は2007年度中に、5品目あるサラダソース製品を日々の受注量に応じて工場からKRSの施設まで移動する業務を年間375時間12分から、275時間6分まで削減した。2008年3月にさらなる改善提案をしており、実現すれば166時間24分まで短縮できる見通しだ(左上図を参照)。

 以上のようなキユーピーのHIT活動事例は、間接部門に改善の風土を根づかせたいと考える企業に参考となる。人に仕事がついてしまいがちな間接部門だからこそ、すぐに業務を可視化できるHITツールの存在は大きい。

 改善目標として、コスト削減効果を狙わず、「無駄を削って生んだ時間で仕事の質の向上を図る」という目標を立てた点も興味深い。夢多゛採り推進部という名前には「無駄を取り、たくさんの夢(より良い新しい仕事)を実現しよう」との願いを込めた。改善で生み出した空き時間を、さらなる改善や革新のための活動時間にするわけだ。

 ただしキユーピーのHIT活動は、もともと改善意欲の強い製造現場を間近に見ている生産本部の間接部門だから、円滑に進んだ面もあるようだ。勝山取締役は「本社ビル内の間接部門よりも、工場内の間接部門のほうがHIT活動の進ちょくは早い」という。つまり、非製造会社の間接部門だと、改善機運を高めるためにはさらなる工夫が必要となる可能性が高い。