やらされ感を無くすことに細心の注意

 実は、5%という目標は決して高いハードルではない。システム科学の石橋博史社長は「自動車部品製造や金融、物流会社など顧客企業は40社以上あるが、HIT活動開始から半年で業務時間を数十%削減できるケースが多い」と明かす。

 キユーピーが高過ぎない目標を設定した狙いは、現場にやらされ感を与えず、「改善活動は楽しい」という機運を高めることに尽きる。同社は30年以上、全社でQC活動を続け、間接部門の各部署も参加してきた。だがマンネリ化し、社内発表会のための表面的な活動に陥っていた。HIT活動は間接業務を抜本的に見直すために始めたのだ。

 もしも極めて高い短期目標を掲げていたら、システム科学の指導を集中的に受ける必要が生じ、現場にやらされ感が募っていた可能性がある。改善活動のために現場が忙殺され、一度改善しただけで意欲が薄れていた懸念もある。

 キユーピー生産本部は2006年度から、強い要望のある職場だけを対象に、試験的にHIT活動を始めた。この間、活動事務局である夢多゛採り推進部の程田久美氏を筆頭に、HITツールの使い方をほかの職場に伝授する社内コンサルタント役が何人も育った。程田氏は2007年度だけで72日間を現場指導のための出張に費やした。外部コンサルタントの指導を先行職場にとどめ、後発の職場への導入は改善実績のある社員に任せたことも、やらされ感の払拭に一役買っている。

●「間接部門は情報を製造する工場」と考え、HIT方式は情報をいかに効率よく加工できるかを追求。トヨタ生産方式を手本にした
●「間接部門は情報を製造する工場」と考え、HIT方式は情報をいかに効率よく加工できるかを追求。トヨタ生産方式を手本にした
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「情報」という「製品」を流すラインを改善

 社内コンサルタントが育ったのは、HITツールの使い勝手が良いからでもある。2002年からHITを活用する大成建設の木内里美理事・社長室情報企画部長は「業務プロセスを図示するツールはいろいろあるが、HITは操作が簡単で特にフローチャートを描きやすい」と評価する。

 システム科学の石橋社長は矢崎総業からトヨタ自動車に出向し、TPSを確立した大野耐一・元副社長(故人)に師事した経験がある。TPSでは問題が顕在化しやすいように様々な工夫を凝らした製造ラインを作り、各工程の作業を秒単位で改善していく。一方、HITは「製品」の代わりに「情報」に着目し、「あらゆる間接業務は情報を加工して異なる“媒体”間で動かす作業だ」と捉える。HITで描くフローチャートは、問題を顕在化しやすくした“情報の製造ライン”なのだ。

●HITを使った業務改善の一例。図はある製品を受注して物流会社に必要数を搬入する業務を示す。段階的に改善を重ねてきた
●HITを使った業務改善の一例。図はある製品を受注して物流会社に必要数を搬入する業務を示す。段階的に改善を重ねてきた
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 HITでは、個人が担う最小業務単位を「4次業務」と名付け、フローチャートで図示する。情報の生成作業は◎、印刷や転記、メール送信などの加工作業は○、承認や決裁などの確認作業は◇、保存や破棄は▽という記号で表す。チャート作成の際、各作業が1回で何分かかり、週に何回実施するかを入力すれば、その4次業務の年間作業時間が算出される。さらに、複数の4次業務の関連性を示すブロックチャートも簡単に作れる(上図を参照)。チャートは業務マニュアルとしても使えるので、仕事の引き継ぎや多能工化も容易になる。

 例えば資材発注という4次業務は、担当者が製造現場から情報を集めて発注書類を作り、社内の承認を経て、外部に注文する。納品後は検品作業も必要になる。こうした情報製造ラインから余分な作業を削ったり短縮したりすることが、間接業務の改善となる。「1人当たり平均40~50の4次業務を担当しているが、フローチャートを使った改善作業に慣れれば、チャートを見るだけでどの個所に改善の余地が大きいか直感が働きやすくなる」と程田氏は図示化の利点を説明する。

HIT活動の社内コンサルタントとして、全国各地の工場やグループ会社などを飛び回る夢多゛採り推進部の程田久美氏
HIT活動の社内コンサルタントとして、全国各地の工場やグループ会社などを飛び回る夢多゛採り推進部の程田久美氏