写真1●九州電力 お客さま本部 配電部 配電システム開発グループの鹿子生賢一氏(左),富田幸治グループ長(中),堀切一郎副長(右)
写真1●九州電力 お客さま本部 配電部 配電システム開発グループの鹿子生賢一氏(左),富田幸治グループ長(中),堀切一郎副長(右)

 九州7県に電力を供給する九州電力の配電部は2008年4月,携帯電話のGPSと自社開発のBREWアプリケーションを組み合わせたシステムを導入した。目的は契約者に提供するサービス品質の向上だ。同社では今後電力の自由化が進むことを見越して,「ユーザーに九州電力を選んでもらえるよう,付加価値の高いサービスを提供する」(九州電力 お客さま本部 配電部 配電システム開発グループの富田幸治グループ長,写真1中)のが目標だという。

 この目標を実現するためには,実際に現場でユーザー対応をする配電部の業務を効率化する必要がある。新システムは,(1)配電設備の工事や障害対応などのユーザー申し込みに短時間で対応できるようにすること,(2)外出先でも社内と同じような情報環境で仕事ができるようにすること,という配電部の業務上の二つの課題に対処するべく投入された。

ユーザー対応をもっと迅速に

 配電部は電気の配電設備の設置や建設現場の調査,設備のメンテナンスのほか,停電や災害時の復旧など,「ユーザーに電気を届ける」ための実務作業全般を担当している。

 同社では本店に加え,九州各県に8カ所の支店,さらにその下に54カ所の営業所を構える。各営業所では,配電部の社員が担当エリアのユーザーからの申し込みを受けて,工事などの現場作業に向かう。

 この担当エリアが事業所によっては非常に広く,「ユーザーの申し込みを受けてから社員が現地に赴くまで,1時間から2時間かかることがあった」(富田グループ長)。この時間を短縮するのが(1)である。

 配電部の社員が担う配電設備の設置やメンテナンスには,設備を置いた土地の地権者,機器の詳細な仕様,現在の電圧など,多くのデータが必要となる。ところが,外出先では社内にいるのと同じように自在にデータを参照することは難しかった。そのため,従来は営業所に仕事を持ち帰って,必要なデータを調べ直し,改めて作業現場に赴くといった二度手間が生じていたという。この手間を省くのが(2)である。

GPSで社員の現在位置を特定

 これらの課題をクリアするため,配電システム開発グループでは2006年ころから新システムの検討を始めた。それが,KDDIの携帯電話のGPS機能を利用して社員の現在位置を確認する「ロケーションシステム」と,それと連携して動くBREWアプリケーション「配電ケータイモバイル」である。

 新システムのネットワークは図1の通り。営業所とコール・センターは,100Mビット/秒の専用線で同社電算センターにつながっている。電算センターはIP-VPN網経由でKDDIのネットワーク・センターに接続。その先にKDDIの携帯電話網と基地局がある。

図1●携帯電話のGPS機能を活用した「ロケーションシステム」の仕組み<br>配電部の社員はGPS機能を搭載する携帯電話を持って外出する。GPSが検出した位置情報に基づき,営業所に申し込みがあった案件の現場に最も近い社員が誰かを検出。短時間で現場に駆けつけ,作業できるよう指示する。
図1●携帯電話のGPS機能を活用した「ロケーションシステム」の仕組み
配電部の社員はGPS機能を搭載する携帯電話を持って外出する。GPSが検出した位置情報に基づき,営業所に申し込みがあった案件の現場に最も近い社員が誰かを検出。短時間で現場に駆けつけ,作業できるよう指示する。
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 センターの接続には,BREWアプリケーション経由で企業ネットワークにアクセスする「BREWlink」と,インターネット接続サービス「EZweb」を介して企業ネットワークに接続する「EZweblink」の各サービス,さらにセンターから携帯電話へのプッシュ型通信に使う「センタープッシュ回線」を利用。これらを使い分けて位置情報などを送信する

 実際のシステムの動きは次のような流れになる。まず,九州電力のコール・センターにユーザーの電話申し込みが入ったら(図1の(1)),コール・センターのスタッフが依頼の詳細や場所をデータベースに入力する(同(2))。

 一方,各営業所の社員はGPS機能付きの携帯電話を持って外出している。基地局やGPS衛星が割り出した社員の位置情報は,九州電力のデータベースに蓄積され,一定時間ごとに更新される。作業中か,移動中かといった「ステータス」も,社員が随時,携帯電話から情報を入力することでデータベース側に送られるようになっている。

 ロケーションシステムではこれらのユーザー申し込み情報,社員の位置情報とステータスを集約して,営業所から確認できる(同(3))。情報を基に営業所から作業現場に最も近い社員に指示を出せば,以前よりも短い時間で作業現場に駆けつけられる(同(4))。