このロケーションシステムには,Webブラウザからアクセスする(図2の上)。画面左側の地図上には,ユーザーからの申し込みとその内容,さらに外回り中の社員の場所を示すアイコンが表示される。画面右側に出てくるのは,営業所に寄せられている申し込み一覧と,外出中の社員の一覧だ。

図2●専用アプリケーションの画面<br>営業所では,Webブラウザから「ロケーションシステム」にアクセスして,ユーザーからの申し込みの確認や,社員への作業の指示などを行う(上)。社員は,携帯電話から「配電ケータイモバイル」という専用のBREWアプリケーションにアクセスして,ユーザー情報や,配電設備の詳細情報などを確認できる。営業所からの指示も,このBREWアプリケーションに届く(下)。
図2●専用アプリケーションの画面
営業所では,Webブラウザから「ロケーションシステム」にアクセスして,ユーザーからの申し込みの確認や,社員への作業の指示などを行う(上)。社員は,携帯電話から「配電ケータイモバイル」という専用のBREWアプリケーションにアクセスして,ユーザー情報や,配電設備の詳細情報などを確認できる。営業所からの指示も,このBREWアプリケーションに届く(下)。
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 営業所のスタッフの一人が司令塔となって,この地図と一覧情報を見ながら,それぞれの申し込みに最も早く対応できる社員を判断する。社員に対してはWebブラウザ上のインタフェースを使って,簡単に指示を出すことが可能だ(図2の右上)。

 一方,社員の持つ携帯電話側には,ロケーションシステムと連携するBREWアプリケーションの配電ケータイモバイルがインストールされている(図2の下)。営業所側で指示を出すと,このBREWアプリケーションの画面に「着信のお知らせ」が届く。社員はこのお知らせから申し込みの詳細や,場所などを確認できる。

 配電ケータイモバイルからは,地権者や配電設備などの詳細情報を参照することも可能だ。今までは帰社後に改めて調べていた情報を,作業現場で簡単に参照できるようになった。

 ユーザー・インタフェースは社員の年齢層を考慮した。配電部の現場で作業する社員は18歳から60歳までと幅広い。IT機器を使いこなすリテラシーが異なるため,「携帯から誰でも使えるアプリケーションになるよう,分かりやすいユーザー・インタフェースを作るのに苦労した」(富田グループ長)という。

速度とセキュリティを重視しKDDIに

 新システムにKDDIを採用した理由の一つは,通信の実効速度だ。「開発を始めた2006年当時,九州ではKDDIのデータ通信速度が最も速かった」(富田グループ長)。他社はkビット/秒クラスの通信しかできない地域でも,KDDIならMビット/秒クラスの実効速度で通信できるケースがあったという。

 BREWアプリケーションが使えたのも理由の一つだった。「BREWでは,動作の軽いアプリケーションを作りやすい」(配電システム開発グループの堀切一郎副長)。

 さらに,セキュリティの観点から,本社側での操作で,紛失した携帯電話のデータを強制的に消去できるような仕組みが必要だった。2006年当時,この機能を用意していたのはKDDIだけだった(図3)。

図3●セキュリティ面での配慮<br>本店からKDDIのネットワーク・センターを経由して,携帯電話のデータを消したり,端末をロックしたりできる。図では省略したが,インターネットからKDDIのネットワーク・センターにアクセスして,端末内のデータを消去することも可能。「配電ケータイモバイル」システムのログインの際にはパスワードが必要で,一定時間アクセスしないと,再度パスワードを要求される。
図3●セキュリティ面での配慮
本店からKDDIのネットワーク・センターを経由して,携帯電話のデータを消したり,端末をロックしたりできる。図では省略したが,インターネットからKDDIのネットワーク・センターにアクセスして,端末内のデータを消去することも可能。「配電ケータイモバイル」システムのログインの際にはパスワードが必要で,一定時間アクセスしないと,再度パスワードを要求される。
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 配電ケータイモバイルにアクセスするまでには,2段階の認証を経る。まずKDDI側で携帯電話に割り当てたIDを認証し,登録済みの携帯電話だけにネットワーク接続を許可する。その後,九州電力のシステムがユーザーIDとパスワードを要求し,合致した場合だけ,配電ケータイモバイルを利用できる。

 一定時間ユーザーの操作がないと,上記のパスワードは再要求される仕組みだ。ただし,これでは携帯電話紛失時,総当たり的に様々な文字列を試されるとパスワードを破られる可能性がある。そのため,九州電力の本店から指示を出せば,KDDIのネットワーク・センター経由で携帯電話のメールやアドレス帳,ユーザー・データなどを消去できる機能が必要だった。

 九州電力では,2008年4月時点でこのシステムを大分県内の6営業所に導入した。2009年中には全社に展開する見通しだ。

 現時点では,はっきりと数値で分かる導入効果は出ていない。ただ,配電ケータイモバイルで詳細なデータ検索が可能になったので,確実に業務の効率が向上したという声が現場から上がっているという。

 さらに,申し込みがあってから作業現場にたどり着くまでの時間も短縮された。今までは遠くの現場に担当社員が出向く際,到着までに時間がかかっていた。新システム導入後は,設備の定期メンテナンス担当の社員が現場近くにいる場合,メンテナンスの合間にユーザーのところに立ち寄って作業する,といった臨機応変な対応が容易になった。

ここがポイント

目的:契約者に付加価値の高いサービスを提供

システム:携帯電話のGPS機能とBREWアプリ

導入期間:2008年4月から順次

効果:作業現場への移動時間の短縮, 業務の効率化

●会社プロフィール
本社: 福岡県福岡市
従業員数: 1万2466人(2008年3月末時点)

●ネットワーク・プロフィール
GPSを搭載するKDDIの携帯電話を使って,外出中の社員の位置を確認。作業現場に最も近い社員を派遣するシステムを開発した。携帯電話には専用のBREWアプリケーションを載せ,設備などの詳細情報を検索できるようにした。