損害保険ジャパン経営企画部経営品質ナレッジ室の沖圭一郎室長代理(写真左)、青木聖子業務リーダー(写真中央)、渡辺智弘室長(写真右)

 損害保険ジャパンの経営企画部が運営する社内SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)「社員いきいきコミュニティ」が軌道に乗ってきた。当初はコンプライアンス(法令順守)対策として現場社員の“生の声”を収集する手段として導入したが、最近は業務に必要な資料の共有や、本社の施策や方針に対する現場の反応をヒアリングする手段にするなど、用途を広げている。さらに活用範囲を広げるため、SNSの参加者から運営の世話役を募り、2008年中にも組織化する計画だ。

 同社がSNSの運用を開始したのは2006年10月。同年5月に保険金の支払い漏れなどによって金融庁から業務停止処分を受けていた。再発を防ぐため、現場の実態を把握できる仕組みが必要と判断した。そこで、経営企画部が以前から従業員満足度を高める狙いで試験運用していたSNSを本稼働させた。

意欲的な参加者を各課の互選で選出

 SNSの運用に当たっては、社員がコメントを書き込みやすくする雰囲気作りに気を配った。たとえば、当初の参加者は全国各地の支店など約850の課ごとに互選で代表者1人を選ぶ仕組みにした。各課の社員同士が話し合い、自宅にパソコンを保有していてSNSへの参加意欲が高い社員を1人ずつ選んでもらった。参加できるのは現場の一般社員に限り、人事権を持つ管理職などは除外した。あくまで現場の“生”の声を収集する目的だからだ。

 参加人数は開始当初で約850人、2008年9月時点でも1908人と、1万6000人以上の社員を抱える損保ジャパンにしては少な目にしている。これも「大人数が参加すると率直な意見を書き込みにくくなると考え、参加者の同意を得ながら少しずつ増やしてきたため」(経営企画部経営品質ナレッジ室の沖圭一郎室長代理)。

 参加者が書き込める内容は基本的に自由だ。個人が特定されると話しにくいテーマも議論できるように、匿名掲示板も用意した。まずは日記、掲示板などのSNSの機能を活用して参加者同士が互いの信頼感・安心感を醸成してもらうことに努めた。経営企画部の担当者3人がファシリテーター役を務め、参加者の日記にすべてコメントを記入して回るといった地道な努力も2年間続けている。

 自由な書き込みからでも「現場で問題が起こっていれば自然とにじみ出てくる」(沖室長代理)という。このため、経営企画部の担当者は社員がSNSに書き込んだ内容のログデータをすべて収集。名前を伏せたうえで役員らに手渡し、参考にしてもらっている。担当役員が情報を閲覧して管理職に改善を指示するといった活動が見られるようになった。

 同社はコンプライアンス専用のホットラインも別途設けているが、「ホットラインは重大なものと受け止められやすく、実際にはなかなか問題が寄せられにくい」(沖室長代理)という。実際にSNS上の書き込みから、現場の問題を突き止めたこともある。

 一連の書き込みやすい雰囲気作りの施策が効果を上げ、参加者は前向きに活用しているという。たとえば2008年9月に愛知県岡崎市で豪雨による災害が発生した際には「対処に役立つ資料をSNS経由で提供する参加者も表れた」(経営品質ナレッジ室の青木聖子業務リーダー)。

社長談話に対する現場の反応を収集

 本社側でもSNSの有効活用を模索している。2008年10月1日には同社の120周年を記念する佐藤正敏取締役社長のメッセージを全国の拠点に動画で配信し、現場の反応をSNSで収集した。経営企画部経営品質ナレッジ室の渡辺智弘室長は、「『全国各地の現場の様子を把握するには社内SNSが役立つ』と本社内からも好意的な反応が寄せられるようになった」と手応えを実感している。

 今後の課題は、現状の活発にコミュニケーションができる環境を維持しながら、利用者のすそ野を広げること。参加者を増やしていくと、相対的に人数が多い首都圏の情報ばかりが目立って、ほかの地域の参加者が情報を発信しにくく感じる恐れもある。これを防ぐため、地域ごとに有志の世話役を募り、地域内のコミュニケーションを活性化する役割を担ってもらいたい考えだ。