三重県亀山市の情報通信工場で利用している「カンバン」の一例
三重県亀山市の情報通信工場で利用している「カンバン」の一例
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 光ファイバーの売上高で世界第2位の古河電気工業は2003年度以降、トヨタ生産方式(TPS)を再徹底させて製品のコスト競争力を飛躍的に高めている。2007年度までの直近の3年間だけを見ても、棚卸資産回転日数が7.4日短縮され、36.5日となった。それだけ無駄な製品在庫や仕掛かり品が減ったことになる。2007年度の売上高は1兆1700億円と過去最高を記録、営業利益は480億円に達した。

 実は、古河電工はTPSという武器を全社で有効活用するまでに、20年近い月日を費やした。トヨタ紡織に頼んで1980年代半ばからTPSの導入指導を受けてきたが、製品分野が多岐にわたるうえ、自動車とは製造工程が大きく異なることもあって、全社にまで浸透してはいなかった。

 「部品の組み立て作業が製造工程の大半を占めるトヨタ自動車のTPSは、数千度の炎を使って光ファイバーの元となる特殊なガラス棒を何時間もかけて生成したり延伸したりするなど、加工処理工程の多い当社には合わない。そんな疑問を持つ現場が少なくなく、導入開始から20年近く経っても、TPSの特徴である『カンバン』を使う現場は限られていた」

 CPO(最高製造責任者)兼CTO(最高技術責任者)である中野耕作専務は、2002年度までの社内の状況を振り返り、苦笑しながらこう語る。

 2003年度以降、TPS導入によって最も大きく変わった工場の1つは、三重県亀山市にある情報通信工場だ。ここは光ファイバーの量産工場として十数年にわたって設備を拡大し続け、従業員は増産対応に必死についてきていた。ところが、2001年に起こったIT(情報技術)バブル崩壊によって業界全体が落ち込み、急に状況が変わった。「残ったのは在庫の山。ありとあらゆる生き残り策を打たないとまずいという危機意識が従業員全員に広がった」と、情報通信カンパニーの大沼広明ファイバ・ケーブル製品部三重製造部部長は明かす。そこで、TPSによるコスト削減に賭けてみることにした。

 光ファイバーの製造工程は、燃焼や溶解など化学反応を起こす工程を多数含む。繊細な温度調整が要求されるため、装置を安定稼働状態にしたら大量に部材を加工したくなる。しかし、それでは変動する受注量に応じた生産はおぼつかない。そのため、「いきなりすべての工程間でカンバンをやり取りするのは難しい、限られた数の工程間だけカンバンを回して仕掛かりをなくすことから始めよう」ということになった。

 このスモールスタート作戦が功を奏し、徐々により細かい工程間でもカンバンを回せるようになった。既存の1工程を複数に分割したり、製品タイプに応じて必要最小限の仕掛かりを特定の工程間だけに持ったりするなど、在庫量の最適化のためのアイデアが、現在も次々と生まれ、実践されているという。