生産革新活動を推進する(左から)品質保証部部長の牛嶋洋親氏、生産技術課生産技術係の徳山竜一郎氏、生産技術課課長の藤原博昭氏。徳山氏が持つのは小型汎用インバータ「V1000」

 無人台車が部品を運び、ロボットが製品を組み立てる――。福岡県行橋(ゆくはし)市にある安川電機行橋事業所のインバーター工場では、こんな光景が日常になりつつある。

 安川電機は全社で推進する生産革新活動の一環として、2007年から情報システムやロボットの支援でインバーター製品の生産を効率化する「フレキシブル自動組み立てライン」を順次拡大。2008年夏までに、仕掛かり在庫が3分の1になるなどの成果を上げている。海外3カ所にもインバーター工場を持っており、日本国内で確立した生産方式の“横展開”も始めた。

 安川電機はポンプやエレベーターなど幅広い用途に使う汎用インバーター(モーターの速度を制御する装置)を製造し、この分野で世界シェア約14%を占める。世界的な省エネ志向の高まりによって需要は急拡大しており、増産に向けた生産性向上は喫緊の課題だった。

 行橋事業所は2008年3月期に約167万台を生産。この4年間で7割も増えた。インバータ事業部インバータ工場生産技術課の藤原博昭課長は「このまま人員を増やさず、2011年までにさらに2倍の数量を作れるようにするのが目標だ」と話す。

RFIDタグで製品を識別し、作業手順を伝達

 ただし、同課生産技術係の徳山竜一郎氏は「個人の技能に依存した従来のものづくりでは、生産性向上に限界があった」と説明する。

安川電機行橋事業所でインバーターの部品(放熱器)を黙々と組み立てるロボット。自社製の6軸ロボットを導入している(軸は人間の関節に当たる)
写真1●安川電機行橋事業所でインバーターの部品(放熱器)を黙々と組み立てるロボット。自社製の6軸ロボットを導入している(軸は人間の関節に当たる)
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 フレキシブル自動組み立てラインの導入に当たって、まず製造中の仕掛かり品にRFID(無線IC)タグを付けて、個体管理できるようにした。製造するインバータは約500種類に上り、ラインのリーダーがその日の品種や生産数を管理していた。これをシステム化し負担を軽減した。

 そのうえで、一部工程をロボットで自動化した。ロボットはRFIDタグを読み取って、対象となる製品によって異なるハンダ付けなどの動作をする(写真1)。

 安川電機は自動車車体の溶接などに使う産業用ロボットのメーカーとしても有名で、行橋事業所でも自社製ロボット「MOTOMAN(モートマン)」が稼働する。安川電機がロボットを使うのは当然に思えるが、「インバーター製品は小さく、繊細な動きが求められる」(徳山氏)。そこで人間の腕の動きに近い6軸(関節)を導入。当初はタクトタイム(1製品・1作業当たりの標準作業時間)が2~3分かかったが、改良を重ね、今では45秒まで短縮化した。

 それでも、人手に頼る作業は残るため、さらに「電子手順書」を導入した(写真2)。セルラインに運ばれた仕掛かり品のRFIDタグを読み取ると、その製品の標準手順書がパソコン画面に表示される。ネジなどの部品箱には2次元バーコードが付いており、これをスキャンしながら組み立てることで、作業の抜け・漏れを防止している。

人手に頼る工程では「電子手順書」を導入。製品をRFIDタグで識別し、その製品の組み立て方を随時パソコンに表示する。部品箱には2次元バーコードが付いており、スキャンしながら組み立てる
写真2●人手に頼る工程では「電子手順書」を導入。製品をRFIDタグで識別し、その製品の組み立て方を随時パソコンに表示する。部品箱には2次元バーコードが付いており、スキャンしながら組み立てる
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工場内を走り回る無人台車(AGV)。部品を入れる箱には「ワールドNo.1」の文字が見える
写真3●工場内を走り回る無人台車(AGV)。部品を入れる箱には「ワールドNo.1」の文字が見える
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 工場内物流の自動化も仕掛かり在庫削減に貢献している。従来は人が台車などを使って部品・製品を運んでおり、ミスや滞留があった。そこで、無人台車(AGV=Automatic Guided Vehicle)を導入(写真3)。14台が構内で搬送する物量の約9割を運ぶ。無人台車は床に張ってある黒いテープを感知し、他の台車や障害物にぶつからないように自走する。ちなみに、工場内では無人台車に「優先権」があり、無人台車が接近したら歩行者が避けるのが決まりだ。