2008年7月に東京・青山にオープンした直営店の店内の様子。マクラーレンのベビーカーがズラリと並ぶ
2008年7月に東京・青山にオープンした直営店の店内の様子。マクラーレンのベビーカーがズラリと並ぶ
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 少子化の影響を直接受けるベビーカー市場にあって、急成長を遂げている商品がある。野村プレミアムブランズ(東京都千代田区)が日本の総代理店になって販売している英マクラーレンのベビーカーだ。2003年に日本市場に参入して以来、主に都市部で躍進を続け、5年後の2007年には年間の販売台数が80倍まで伸びた。首都圏ではマクラーレンの大きなベビーカーを押す家族連れをあちこちで見かけるようになり、130億円規模といわれる市場で約10%のシェアを獲得した。

 好調な販売を受け、野村プレミアムブランズは2008年7月に、日本初の直営店を都内にオープン。単品で50弱あるベビーカーのラインナップをすべて確認できるようにした。開店から1カ月で、約1000人の顧客を集める人気ぶりだ。

 これまでは、小売り経験がない野村プレミアムブランズが、ベビー向け商品の販売で実績が高いファミリア(神戸市)と日本トイザらスの「ベビーザらス」の2店と提携し、マクラーレンを国内販売してきた。現在も販売台数の90%以上は、ファミリアとベビーザらスでの実績だ。

 野村プレミアムブランズは毎年、年初にその年の新モデルを日本市場に投入。顧客からの受注会を皮切りに販売を開始する。だが、2007年までは、その年の秋には人気モデルの在庫がすべて無くなってしまうほどの売れ行きで、顧客によっては翌年まで3カ月ほど新モデルの入荷を待たなければならない状態だった。直営店を出した2008年は、こうした品切れ状態を回避すべく、例年以上の在庫を抱えて販売に当たっている。

 マクラーレンが日本市場に参入する前の2002年まで、ベビーカー市場はアップリカ・チルドレンズプロダクツ(大阪市)とコンビの大手2社が市場を二分する寡占状態が続いていた。そのため、2002年までに子育てを終えたほとんどの家庭では、アップリカもしくはコンビのベビーカーを使っていたはずだ。

 しかし、今は状況が異なる。2003年以降は英国生まれのマクラーレンがベビーカーの選択肢に加わり、人気が沸騰。それに続けとばかりに海外製のベビーカーが次々と日本市場に投入され、選択肢は格段に広がった。ここ数年、街で様々なタイプのベビーカーを見かけるようになったのは、そのためである。

「ベビーカーは重いと売れない」の常識を否定

 1967年に世界で初めて折り畳み式のベビーカーを発売したマクラーレンは英国や米国で高いシェアを誇り、特に米ニューヨークのマンハッタンではセレブリティーが子育てに使うおしゃれなベビーカーとして人気が定着している。にもかかわらず、日本では2002年までその存在が全く知られていなかった。

 アップリカとコンビの2強が市場を独占していた時代、日本では「ベビーカーは軽くなければ売れない」というのが業界関係者の「常識」だった。ママの負担を少しでも軽くするため、国産メーカー2社はベビーカーの軽さを追求したのだ。それに対し、もともと欧米人向けに作られているマクラーレンのベビーカーは国産2社の商品と比べて1~2kgは重く、現行の売れ筋商品も重さが6kg前後ある。赤ちゃんを乗せれば、総重量は10kgを超える。

 まして、寡占状態のベビーカー市場は年々規模が小さくなっており、2007年は2001年と比べて20%以上も市場が縮小している。「誰も新たな市場があるとは思っておらず、日本のバイヤー(仕入れ担当者)は欧米で人気のマクラーレンに注目してこなかった」(野村プレミアムブランズの山田英貴取締役)。

 しかし、マクラーレンの特徴である操作性の高さや頑丈さ、そしておしゃれなデザインは、英国や米国の実績が証明している。国産品よりも1年長い、子供の4歳の誕生日まで使える「お得で便利な」設計にもなっている。そうした利点に中堅の商社である野村貿易(東京都千代田区、野村プレミアムブランズの親会社)が目をつけ、寡占市場で勝負に出た。それが見事に当たったわけだ。

 実はマクラーレンは、日本の子育て事情の変化にうまくマッチしたといえる。出産後もおしゃれなベビーカーを押しながら積極的に外出したいママが増え、従来までの画一的な国産ベビーカーではなく、人とは違うタイプのベビーカーを買い求める傾向が強まり出したのだ。パパの子育て参加も当たり前になり、体の大きな男性が押しやすいハンドル位置が高いベビーカーが重宝されるようにもなった。こうした点はマクラーレンの特徴と合致する。マクラーレンはママよりもむしろパパの意向で購入を決める家庭が多い。

 当初、全く広告予算がなかったという野村プレミアムブランズは、ファミリアが出店する都内の伊勢丹や高島屋などに買い物に来るママやパパの口コミだけを頼りに、こうしたマクラーレンの強みを世間に広めていった。その効果が次第に広がって、当面の目標だった市場シェア8%の獲得を既に達成。野村プレミアムブランズはマクラーレン景気で勢いに乗っている。