プロ向け電動工具最大手のマキタの岡崎工場。全社では約800種類もの製品を製造しており、製品特性に応じてセル生産方式と短ベルト生産方式を使い分けている

 ドリルやドライバー、グラインダーなどプロ向け電動工具市場で世界最大手のマキタは、製造現場の業務改善活動を年々活性化させることに成功している。特にここ数年は、同社で唯一の国内工場である岡崎工場(愛知県岡崎市)で改善が盛んだ。その秘けつは健全な競争意識を社内で作り出していることにある。

 「2001年に主力製品の量産拠点としての役割を中国工場に移すと決めてから、社内競争意識が芽生えた。人件費が低い中国工場よりも生産性を高めるためにはどうしたらいいか。そのための知恵を岡崎工場で出し続けている」(マキタの鳥居忠良取締役生産本部本部長)

 30カ国以上に販売子会社を持ち、3400億円の売上高のうち2900億円を海外で稼ぐマキタは、日本、中国、米国、カナダ、英国、ドイツ、ブラジル、ルーマニアに生産拠点を持つ。マキタは、改善活動におけるこれら8カ所の工場の役割分担を2007年度までに段階的に明確化してきた。生産台数の6割は中国工場が担っている。

 日本の岡崎工場は「改善のマザー工場」「中国工場の先生」といった位置付けである。岡崎工場では2007年度に、製品の加工工程、組立工程、製造設備、治具、工場内物流などに関して約1万件もの改善提案があった。これらは製造現場が自発的に提案したものだ。改善ノウハウを蓄えた岡崎工場の従業員は、中国工場を中心にして各国の工場へ応援出張を行い、マキタ流ものづくりを指導している。各国の現地スタッフを研修生として受け入れてもいる。

 同社の後藤昌彦取締役社長も自ら熱心に改善を鼓舞している。本社と岡崎工場は6~7kmしか離れておらず、後藤社長は頻繁に岡崎工場を訪問する。しかも、新製品の組立ラインが出来上がると、後藤社長が自らラインに入り、新製品を組み立てて見せることがよくある。全拠点を合わせると従業員数が1万人を超す大企業で、ここまで現場志向な社長は珍しいだろう。「社長が来てくれることで現場が大いに盛り上がるだけじゃなく、いい加減なことはできない、生産効率の高いラインを作ろう、と気が引き締まる」と鳥居取締役は語る。

 長期雇用を維持していることも改善活動が盛んな一因のようだ。「失敗したらすぐクビになるような風土では、自主的な改善提案は出づらいだろう」(鳥居取締役)

 また、比較的近距離にトヨタ自動車の工場があるため、素材や部品の調達先企業がトヨタと重なるケースが多い。このため、調達先も改善活動に熱心だったり、マキタ従業員の家族や友人、知人がトヨタグループ関係者だったりすることが多い。その結果、マキタの従業員は自然とトヨタの改善風土を取り込んでいる面もある。

 一方、2007年度の改善提案件数が約1000件で2番目に多かった中国でも改善の風土作りを進めてきた。1件当たり10~50元の報奨金で提案を促している。中国工場の従業員の月収はおよそ1000~1500元なので、半年分の褒章金額が1カ月分の給料に相当する人もいる。

 今後は岡崎工場や中国工場で培った改善のノウハウをグローバルに広げる。2007年度から世界中のすべての工場に共通の生産性指標として「1人1日当たり生産台数」「スペース効率」「部品在庫率」を設定した。健全な競争意識を世界各地に浸透させるためだ。生産管理部が各工場や各現場の数値を毎月調査し、結果を通知する。数値を分析してどこに課題があるかを見つけ、関連各部と協力して改善指導もしている。「共通指標を使った社内競争は、全社の生産性向上に大いに役立っている」と、中国工場担当取締役の冨田真一郎生産本部副本部長はいう。マキタの2007年度の対売上高営業利益率(連結)は19.6%にもなる。