(左から)トライアルカンパニーCIO(最高情報責任者)の西川晋二氏、中国人技術者の華忠広氏、管理本部業務改革部の古賀輝幸氏。手前は売価29円のプライベートブランド(PB)の缶入り茶

 中堅ディスカウントストアのトライアルカンパニー(福岡市)が、自前のオフショア拠点と中国人技術者を生かした基幹システム再構築を加速させている。独SAPのERP(統合基幹業務)パッケージをベースにした財務・会計システムの刷新が一段落。現在は、2009年3月末までをメドに総務・人事系システムの刷新を進めている(関連記事)。年率2ケタ成長を続け、売上高1504億円(2008年3月期、前年比16%増)、社員・パート従業員9000人弱(同月末)まで成長した同社の経営インフラを整備。同業他社の20~30%台に比べて低い15.2%という売上高販管比率の維持を狙う。

 2004年に中国山東省煙台市にシステム開発拠点「TRE China」を立ち上げ、中国人IT(情報技術)技術者100人を採用。今では、同省青島市と遼寧省大連市を加えた3拠点で1000人弱の中国人社員を抱える。トライアルの西川晋二CIO(最高情報責任者)は「(ITベンダーでは無い)ユーザー企業がここまでの規模のオフショア人材を自前で抱えている例は世界的にも例を見ないはず」と胸を張る。自前のIT要員を生かし、規模の拡大や業務プロセス変更に沿って数カ月サイクルでシステムを改善する取り組みを続けている。

ローコストオペレーションの理念浸透を徹底

 トライアルは、中国人技術者を早期に戦力化するため、「当社のビジョンを中国人社員に浸透させることを徹底した」(中国拠点の立ち上げを担当した管理本部業務改革部の古賀輝幸氏)。

 トライアルのビジョンは、「より良いものをより安く、より豊富に、より便利に、より快適に」というもの。店舗では、29円の缶入りウーロン茶、89円のネクタイなどの激安価格が消費者の目を奪う。ローコストオペレーションで売価を下げることを徹底し、顧客満足につなげる考えだ。

 だが、2004年入社の中国人技術者一期生である華忠広氏(TRE China ITO第一事業部事業部長)は、「最初は、『より良いものをより安く』という考え方が全く理解できなかった」と振り返る。華氏は山東省の一流大学でソフトウエア技術を専攻し、トライアルに新卒入社した。持ち前の技術力を生かしてプログラミングを担当したのち、今は事業部長に昇進。30人の部下を抱えて、パート社員管理など総務・人事系システム構築のプロジェクトリーダーを務める。西川CIOが「新しい業務や技術を覚えるのに熱心で、一緒に働く日本人社員を立ててくれる礼儀正しさもある」と賞賛する人材でも、同社のビジョンをすんなり受け止めるには育った風土が違い過ぎた。

 華氏は入社当初、勤怠管理システムの開発を担当した。これが管理業務の省力化や人員配置の最適化につながり、低価格に結びつくとは理解できず、意識が高まらなかったという。「中国では、顧客満足よりもなるべく高く売って自分が儲けたいという考えが根強い」(華氏)。トライアルで販売している中国製ネクタイと同様の商品は、中国ではもっと高値で売られているという。

 そこでトライアルは、日本語やIT技術以外に、「流通科学」の基本を教える研修カリキュラムを充実させた。日本のトライアル店舗や物流センターに中国人技術者を3~6カ月配属し、実地で研修するプログラムも実施。毎日実施する日本の店長向けテレビ会議に中国人技術者も参加させ、まだ日本語が不自由な人には中国語で解説を加えた。華氏は、「徐々に『ああそういうことか』と分かるようになった」と話す。

 上海などの都市部を避けて地方で新卒採用し続けていることも同社の中国人技術者確保の秘けつである。中国では理系大学新卒者の絶対数が多い。トライアルはほかの外資系企業との採用合戦を避ける狙いから、中国国内でも地方都市の大学を中心に企業説明会などを実施。その結果、初年度から定員の約100倍もの応募が殺到し、以後も同水準の倍率を維持している。「一定数の応募があるからこそ、語学も業務も熱心に学んでくれる優秀な人材を採用できる。日本国内では当社の知名度でこれだけの人材を確保するのは不可能だ」(西川CIO)という。