日産自動車IPプロモーション部の茅根泰仁課長(左)、曽根公毅部長(中央)、内田一広主管(右)

 日産自動車が知的財産の活用に本腰を入れている。特許の出願・調査・係争といった業務だけでなく、中国で頻発する模倣品の対策や、開発過程で生まれた技術や経営改革のノウハウの外販、自社製品が多くの消費者の目に触れる機会増にも取り組んでいる。

 同社は新旧2つの知財関連の部署が役割分担をしている。まず開発拠点の神奈川県厚木市などに90人を擁する知的財産部。1966年から自動車にかかわる特許関連の業務を担ってきた。もう1つが2004年4月に設立された知的資産統括室。2008年4月にIPプロモーション部に部署名が変更。IPは知的財産を意味する「インテレクチュアル・プロパティー」の略。銀座の本社に17人が在籍している。

 第2の知財部隊であるIPプロモーション部の発足は、2001年から2007年まで同社副会長を務めた、元特許庁長官の伊佐山建志氏の肝入りによるものだ。特許出願により自社製品を守ったり、他社にライセンスを提供したりといった本業以外の“攻め”の任務を負っている。そのため多様な人材が集められた。開発部門に所属する知的財産部と異なり、IPプロモーション部は技術系と事務系の社員がほぼ同数。インテルやホンダ、ブリヂストンといった企業からの転職組もいる。自社製品をゲームやテレビ番組で使ってもらうなどのPR活動も積極的に行うので広報部にいた社員も2人いる。曽根部長は元エンジニアであり、前の職場は広報部だった。

 部署設立から4年、IPプロモーション部の業務は常に順調だったわけではない。「最初の3年は暗黒の時代だった」と曽根部長が苦笑する。技術特許のライセンスビジネスに苦しんだという。当初は社内でも未使用の先端技術にこそニーズがあると思っていた。だが、客観的に見て競争力があると判断したものを異業種のメーカーの技術者に紹介しても「その技術はどの車に使われているのですか」と聞かれてしまう。「未使用の先端技術より、自動車で既に使われて実績ある技術のほうが関心を持ってもらえると分かった」

 “営業”を転換した結果、日産の4つの広角カメラを用いて自動車を真上から撮影したような合成映像を作るアラウンドビューモニター技術は、潜水調査船「しんかい6500」に搭載が検討されている。人体から放射される赤外線を可視化できる技術は計測器メーカーのチノーに提供され、2008年内にも製品化される予定だ。

 IPプロモーション部が取り扱っているのは技術分野の知財だけではない。意匠や商品、ブランドなども含まれる。変わったところでは、経営ノウハウ。2008年4月から早稲田大学と共同開発したOJTオンライン研修プログラムを販売している。同社の経営改革のノウハウをパッケージ化したものだ。

 2007年に新作が世界中で発売されたゲームソフトプレイステーション3向け公道レースゲームソフト「Need for speed」では、パッケージの表紙やポスター、販促用のビデオに同社のGT-R PROTO(GT-Rのプロトタイプ)が使われた。子供向けテレビ番組「トミカヒーロー レスキューフォース」では主役のヒーローが乗る自動車はフェアレディZがベースになっている。

 曽根部長は「子供向け番組へ車両を提供するのは、将来的なファン作りにつながる」と語る。いずれも従来型の“待ち”の戦略ではつかめなかったものだ。こうした様々な活動を足すと、IPプロモーション部の売り上げは20億円弱に上るという。2010年に30億円到達が当面の目標である。