先行事例に学び、独自のサービス体系確立

西日本鉄道ICカード事業部の飯田浩之課長(左)と杉本将隆係長

 まず課題として意識したのが、ショッピングに頻繁に使ってもらえるよう加盟店を増やすこと。地域内での利用密度を高めるため、グループ外の加盟店開拓を進めた。「西鉄はほかの私鉄と異なり、百貨店を持たないなど流通業の事業比率が低い。グループで囲い込もうとせずに、福岡近辺での“地域通貨”を目指した」(飯田課長)。西鉄福岡駅がある天神地区では、西鉄系の商業施設(ソラリアなど)だけではなく、主要百貨店(岩田屋、大丸、三越)でもニモカを使える。ローソンやベスト電器など、チェーン店の加盟も多い。2008年8月現在、約600店舗の加盟店で買い物に使える。

 さらに貧弱なシステムが分析の妨げにならないよう、最大約3万ギガ(ギガは10億)バイトという膨大なデータを扱えるデータ・ウエアハウスを構築した。1日数十万~数千万人が利用する交通機関は取り扱うデータ量が膨大で、容易に分析対象にできないからだ。

 西鉄や加盟店がデータ分析することに対して、個人情報保護法上の承諾・同意(パーミッション)を得られるかどうかも大きな課題だった。通常のニモカは個人情報を登録しなくても駅の自動券売機でいつでも購入できるが、上位版として、氏名や住所、性別、生年月日を申込書に記入して駅窓口で申し込めば、さらに買い物時にポイント特典を受けられる「スターニモカ」への加入を促進した。スターニモカの申込書を通じて「加盟店からの営業案内」などに関する個人情報利用のパーミッションを得る。通常のニモカは電車・バスを利用する時だけポイントがたまるが、スターニモカでは個人情報を登録してもらった対価として買い物でもポイントが付くようにしている。ためたポイントは1円単位でニモカにチャージ(入金)して、電車・バス・買い物で利用できる。2008年8月上旬までに発行したニモカ約10万枚のうち、約8割でパーミッションを取得している。

 今回の取り組みによって、西鉄単体としては、性別や年齢・住所などの属性別に鉄道・バス利用状況や乗り継ぎ状況を分析し、ダイヤ改良などによって自家用車からの移行を促す。一方で、各加盟店は自店の利用データを画面上で自由に分析することができ、公共交通機関を活用して来店する顧客の動向をより詳細に分析できる。

 乗車券・電子マネー決済の基幹システムにはJR東日本のSuicaのシステムを採用。小売店などの店頭に置く決済端末にはJR東日本とNTTドコモが設立した「共通インフラ運営有限責任事業組合(LLP)」の共用型端末を採用した。データ・ウエアハウスには日本テラデータ(東京・中央)のツールを導入。システム全体の投資額は約80億円。

 ニモカは2008年8月現在、西鉄の鉄道線全駅(自動改札機未導入の貝塚線を除く)と、保有バス約3000台の約1割で利用可能。バスへのICカード読み取り機取り付けを進めており、2010年3月までにほぼ全台に導入する予定である。nimoca顧客分析システムではこれらの利用履歴の相関を調べられる。ただし、まだ約3カ月分しかデータが蓄積されていないため、詳細な分析が可能になるまでには時間がかかりそうだ。