そこで過去数年間に主要顧客に販売した既存製品の仕様をすべて調べ直した。「網羅的に仕様のばらつき具合や、標準化できる構造部分を調べ上げた。何が標準で何が例外的な仕様なのかをこの調査によって理解できた」(大塩課長)という。

 例えば券売機の場合は、仕様において「硬貨の収納ボックスに鍵は有るか無いか」といった差異がある。標準仕様を「有り」として、それらを構成する部材を標準モジュールとして定義した。

 この作業は、設計部門が本来の業務をこなしつつ進めたこともあり2004年度に着手してから完了までおよそ2年間を要した。「『いつまでかかっているんだ』という声も出たほどだったが、これをやり切れば絶対に設計の効率は上がる、やらないと需要をこなしきれないという危機感が設計現場にあった」(水野主幹)

 作業完了後は、チェックシートを営業が埋めれば、直ちに、どんな標準モジュールや部品が必要なのか、設計部門が簡単に把握できるようになった。標準部材の手配や、調達コスト削減も進みやすくなった。従来は、顧客からの受注案件ごとに独自の品番で製造仕様を管理していたために、設計や調達部材の購買をそのつど行うことが多く、集中購買の妨げにもなっていた。

 改革に着手してから3年後、2007年度にSSBの営業利益率(8.3%)が過去最高を更新した。ATM事業が新札需要で好調だった2003年度を上回る好調ぶりだ。2006年度に社長賞も受賞した。「鉄道関連のIC化がひと段落した2007年度は売り上げが落ちたが、利益率をさらに改善できたことで、事業体質の強化を実感している。SSBのうち公共ソリューション事業部だけに限れば、営業利益率は2004年度から連続して向上している」(広報部)

 製造業の事業改革に詳しい立命館大学経営学部の善本哲夫准教授は「モジュール化設計による利益改善は営業側の協力がネックになりがちなもの。設計改革と営業改革を同時並行で進めて、わずか3年ほどで成果を上げたのは珍しい」とオムロンの取り組みを高く評価している。