そこで、新しい営業スタイルを導入した。それが2005年から推進した「ツーウェイコミュニケーション」活動だった。これは別カンパニーの半導体センサーの事業部門でも推進していた活動で、顧客を滋賀県草津市の工場に呼び、品質管理状況やトラブルの状況などを包み隠さずプレゼンするというものだった。プレゼンは主に、技術者が行う。

 当然、現場には抵抗感があったが田辺事業部長は「まずやってみろ」と実行させた。開発が遅れているのは顧客の承認が遅いからなのか、仕様の打ち合わせが悪かったからなのかなどを明確にしつつ、試作品を見せながら「ここはこういう仕様でいいですか」と顧客に念押しするといったやり取りをさせた。当初は、「『全然プレゼンになってないな』ときつい言葉を顧客からもらうこともあった」(水野主幹)。だが、何度か行ううちに時には顧客から褒められることもあり、現場の抵抗感は薄れて前向きになった。この活動はMBUの一体感を高めることにつながった。

 (2)のソフト開発体制の見直しも、MBU制の実施と同時に解決を図った。子会社のオムロンソフトウエア(OSK)に在籍していた約100人のSE(システム・エンジニア)を2004年11月に転籍させてMBUに加えたのだ。「製品原価の中で、ソフトの開発費は場合によっては全体の3割を占める。品質問題が出た時の対処を早くするために欠かせない施策」と田辺事業部長は言う。しかも、転籍前は、本社の人間との打ち合わせで「オムロンさん」などと言うSE がいたほど、心の距離があった。

 ただし、OSKに所属していたSEは、転籍後に自分の仕事がどう評価されるのかなどを不安がった。そこで、田辺事業部長はソフトウエアの開発責任者をOSKから選ぶなど配慮した。

標準仕様を定義し採算管理を強化

 こうした改革を進めつつ、顧客の言いなり体質からの脱却に向けた切り札として用意したのが、2006年4月から導入した仕様チェックシートだった。仕様チェックシートは、営業担当者が顧客との打ち合わせ時に仕様の抜けや漏れを防ぐために活用するものだ。

●営業と開発をつなぐ仕様チェックシート
●営業と開発をつなぐ仕様チェックシート

 ただし、仕様チェックシートを策定するに当たっては、PLM(プロダクト・ライフサイクル・マネジメント)の1手法である「製品を標準モジュールとオプションモジュールから構成することで設計図面の流用や生産性向上を推進する」という考え方を採用した。このため、仕様チェックシートを作る作業は、標準モジュールを定義し、部品表でどんなツリー構造で部品を管理するかまで取り決める大がかりなものとなった。