アパレルメーカーとしての原点回帰

 いわゆるQR(クイック・レスポンス)体制の構築が主流のビジネスモデルであった。今はやっている服をそのシーズンのうちに投入する。「人気のデザインをそのまま真似た商品を投入する企業が次々に現れた。他社の商品が売れたらそっくりに作って売るから『後出しジャンケン』みたいなもの。その結果、どのメーカーの商品も同質化が一気に進んだ」(大和総研企業調査第三部の篠崎真紀シニアアナリスト)

 QRにこだわり過ぎた一部のアパレルでは創造性や商品を提案しようという姿勢が奪われてしまったといえる。そうなるとブランドとしての競争力は失われ、消費者に飽きられる。スコッチハウスでもQRの生産体制を一部残してはいるが、想定を超す売れ行きを見せた時の備えにすぎない。

 以前より2カ月も早くにデザインを始めるという三陽商会の取り組みを、大和総研の篠崎氏は「流行に関係なく、消費者に着てほしい商品を提案するというアパレル本来の姿への原点回帰だ」と見ている。

 三陽商会は2008年の春夏シーズンから「ポール・スチュアート」と「イルファーロ」というスコッチハウスに続く主力ブランドにもSロット政策を導入した。成功体験を横展開させていく。

紳士服事業部スコッチハウスディヴィジョンの村井徹ディヴィジョン長(写真右)と瀧口武晴企画統括長(左)
紳士服事業部スコッチハウスディヴィジョンの村井徹ディヴィジョン長(写真右)と瀧口武晴企画統括長(左)

 重点商品の対象は、いわゆる定番物。スコッチハウスディビジョン企画グループの瀧口企画統括長は「すべてのブランドや商品に有効なものではない。デザインや色など、シーズンごとに流行が変わる『モード』と呼ばれる商品群には向かない」と認める。大きくデザインが変更しない、歴史のあるブランドの商品で効果をもたらす。

 かといって、効率一辺倒で商品展開をするつもりはない。「効率化を追求し続けるとブランドは売れなくなる。売れ筋しか並んでない商品棚では魅力がないのでブランド価値が下がる」(三菱UFJ証券の櫻井氏)。三陽商会紳士服事業部は次の流行につながる商品も作っていく考えだ。機会ロスを無くす一方で、新しい売れ筋を見いだすことにも力を入れていく。

●売り筋のブルゾン商品の販売推移
●売り筋のブルゾン商品の販売推移