2カ月前倒しで企画・生産

 精度を高めるために取り組んだ改革はまず、商品の企画に取りかかる時期を2カ月早めることだった。年に2回、4月と10月に開く展示会に合わせ、従来はその4カ月前からデザイナーが企画・デザインにとりかかっていたのを半年前からに繰り上げた。早めに完成するサンプルを基に、ブランドにかかわる担当者全員で売れ筋を予測しながら企画を修正していく。

 展示会までの期日が長くなったことで、デザイナーはサンプルを作り、マーチャンダイジング担当者らの意見を取り入れながら改良をしたうえで展示会に出すという余裕が生まれた。「デザイナーが製法について相談するために工場へ行ったり、素材を吟味したりする時間もできた」と紳士服事業部スコッチハウスディヴィジョン企画グループの瀧口武晴企画統括長は話す。

 前倒しにしたことで展示会に来場した百貨店関係者や全国の店舗の販売担当者などに新作の魅力を説明したり、サンプルを見せたりすることができるようになった。従来は展示会の時点でもサンプルがすべて完成しておらず、生地とデザイン画だけを見せることもあった。村井徹スコッチハウスディヴィジョン長は「実物がないと、販売の予測も勘や経験に頼らざるを得ない。前倒しによりあらかじめ完成させたサンプルを前にして販売計画を決定する意味は大きい」と説明する。

 販売計画を立てる企画検討会も早め、展示会の前に開催するようにした。検討会には営業や企画、店舗担当者らが集まり、重点商品をどれにするかを話し合う。そして、面積や立地が異なる各店舗の回転率などを加味して、商品投入後の販売数を週単位で予測し、適正な生産量を割り出す。

 この予測を基に工場への発注量を決める。重点商品は従来の2~3倍という量を注文する。一方で、ほかの商品ではサイズやデザイン、色などを絞り込むなどして、商品点数自体は15%減らした。

 これまでは130におよぶ店舗を地域ごとに統括するエリア代表からの「うちではこれだけ売ります」という申告を積み上げて生産量を決めていた。現場の勘や意欲を重視するやり方だ。紳士服事業部の阪本直也事業部長補佐は「『売り切るんだ』という現場のモチベーションにつながるのは良いが、当たり外れがどうしても大きくなる」と振り返る。

 販売機会の損失を無くすという効果は大きかった。次ページの図は売れ筋のブルゾンの売れ行き推移を表したものだ。2006年は第6週から急激に売り上げが落ち込んでいる。予想を上回って売れている時に商品の供給が追いつかなかったからだ。Sロット政策を導入した翌2007年は週次での売り上げ予測を基に生産して欠品を無くし、ロングヒットにつながったことが分かる。

 2007年春夏シーズンの重点商品は従来の3倍の量を生産しながらも、9割の数量を定価で販売できたという。売れ残った商品はシーズンの変わり目のセールで値引きして売ることになるため、アパレルメーカーの収益は悪化する。在庫をほとんど抱えずに済んだことから、利益率向上にもつながった。