東京都世田谷区にあるショッピングセンター「玉川高島屋S・C」の外観
東京都世田谷区にあるショッピングセンター「玉川高島屋S・C」の外観
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 東京・世田谷の二子玉川駅前で大規模な街の再開発事業が進行している。2011年以降、駅前には大型のマンションや商業施設などがオープンする予定になっている。現在、駅前の東側は旧来の建物がほとんど取り壊されて更地に戻された状態で、新しい街づくりが急ピッチで進められている。再開発組合の1社である東急電鉄グループによる大々的な広告宣伝活動も開始された。

 ニコタマの愛称で親しまれている二子玉川地区をこれまで引っ張ってきたのは、駅前の商業施設「玉川高島屋S・C(ショッピングセンター)」だ。年間1680万人が訪れる玉川高島屋S・Cは周囲に競合の商業施設が存在しなかったが、再開発事業の完成後には初めて、二子玉川駅と直結するライバルの商業施設がお目見えすることになる。完成直後は互いに集客を増やす相乗効果も期待できるが、「新しい商業施設で買い物を済ませてしまう顧客が増える可能性もあり、玉川高島屋S・Cにとっては必ずしも楽観視できない状態だ」(運営母体である東神開発の吉田隆之・玉川事業本部SC企画グループ長)。2009年に開業40周年を迎える老舗商業施設の玉川高島屋S・Cは、2011年までに今から先手を打っておく必要がある。

 高級ブランドショップを含む340店が入居する玉川高島屋S・Cが死守しなければならないのは、売り上げ全体の60%を占める自家用車での来店客である。休日ともなると、周辺には駐車場の空きを待つメルセデス・ベンツやBMWといった高級外車の列ができる。都内有数の高級住宅地である世田谷エリアを地盤とする玉川高島屋S・Cは高級外車に乗る富裕層の顧客を数多く抱えるが、現在2000台分ある駐車スペースをさらに百数十台分は拡大して、車利用客の囲い込みに走る。駅前に出現する競合の商業施設は電車での来店客が多数を占めると予想されるので、すみ分けが可能になるとの計算がある。

 玉川高島屋S・Cの車利用客の平均買い上げ金額は、1台当たり約3万円だ。一度の買い物で家族や恋人同士で3万円を消費してくれるのは大きい。この金額に年間220万台の駐車台数を掛け算すると660億円になり、単純計算では顧客全体の30%を占める車利用客だけで、総売上高1092億円(2008年2月期)の約60%を支えることになる。

 極めつけは、駐車料金とは別に1000円を支払って利用するバレーパーキングサービス「インフォローズ」の顧客の存在だ。駐車場待ちの列に並ばずに済むうえ、買い物した商品を車まで運んでくれる付随サービスがある。毎月2200台の利用があり、前期比30%増で利用台数が伸びているほどの人気ぶりである。こちらは1台当たりの平均買い上げ金額が6万円台と、通常の車利用客のさらに2倍以上と高額だ。館内を手ぶらで回れる気軽さが富裕層の顧客に好評で、購買単価を一層引き上げていると考えられる。

 買い物中に愛車を手洗いしておいてくれる洗車サービス(別料金)も月300台の利用があり、高級車に乗る顧客には受けている。玉川高島屋S・Cはこうした車関連のサービスに今後は一層磨きをかけていくことにしている。