取引先の協力も得て当日生産を実現

 メタル加工工場の改善活動は、さらに三菱樹脂や取引先のミサワホームを巻き込む形に発展した。邸別生産や加工リードタイムの短縮によって製品出荷リードタイムを2日にまで減らしたが、さらに1日減らして当日生産を実現するには、社外の協力が不可欠だったからだ。

 従来の体制では、午後1時に注文が確定した。それを受けて邸ごとに必要な製品の一覧表を作成し、対応する部品の加工指示書を印刷し、その指示書に必要な数量を手書きで入力していた。一連の作業が終わるのは午後4時。生産を始めたとしても、当日はほとんど何もできなかった。

 まず、邸別一覧表と加工指示書をまとめて作成できるシステムを米マイクロソフトのデータベースソフト「アクセス」を活用して自社開発した。三菱樹脂本社も協力し、住宅メーカーから発注用図面として送られたCADデータから必要な部材製品を自動的に算出するシステムを開発。両システムを組み合わせることにより、各邸の施工主の名前を入力すると、製品一覧表と必要な部品数量が記入された加工指示書を一括して出力できるようになった。注文確定から現場が生産を開始するまでの時間を1時間に短縮できた。

 さらに、三菱樹脂本社の営業担当者がミサワホームと掛け合い、ミサワホーム側の注文のバッチ処理を前倒ししてもらうよう依頼した。納期短縮の恩恵を受けられるミサワホームは快諾し、午前9時には注文が確定する体制に変わった。

 こうして生産開始は午後4時から午前10時へと早まった。注文確定前の情報で一部の生産に着手するといった工夫もあって当日生産が実現した。製品出荷リードタイムは、実稼働時間ベースで従来の28時間から18時間に短縮した。

●取引先のミサワホームの協力を得ながら当日生産体制を確立
●取引先のミサワホームの協力を得ながら当日生産体制を確立
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 このように年々改善に取り組み成果につなげている菱琵テクノだが、やはり当初は「なぜこれまでの業務のやり方を変えなければいけないんだ」と抵抗する社員もいたという。宮本拓夫前社長が、コンサルタントを招いて毎月数回勉強会を開催したり、朝礼での対話などを通じてねばり強く必要性を訴えてきた。 2002年ごろから各部署の成果が目に見えるようになり、軌道に乗った。

菱琵テクノの齋藤稔社長(写真左)と三菱樹脂の石井和男理事役ライフライン事業本部住設環境事業部長(写真右)
菱琵テクノの齋藤稔社長(写真左)と三菱樹脂の石井和男理事役ライフライン事業本部住設環境事業部長(写真右)

 これを引き継いだ齋藤社長も、改善を続ける環境作りに力を入れる。十数種類の施策を打ち出しており、中でも注目すべきものは3つある。

 まず1つ目は、業務改善の効果を人員削減に適用しないと約束していること。「自分が担当する業務を効率化した結果、自分の仕事が奪われてしまうようでは、現場から改善する意欲が失われる」(齋藤社長)。改善の結果、業務に余裕が生まれた際には、外注していた部品を内製化するなど、新しい業務を増やすことで応えている。

 2つ目は、「気付きシート」の活用である。これは、業務の進め方で疑問を感じた点を書きとどめられるようにするもの。シートには「変だな」「なぜ」「なぜ」「どうする」という4項目の枠があり、順に記入すると改善施策を思い付ける仕組みだ。かんばん発注を担当していた社員が発案し、現在では全社的に活用している。

 また、社員が改善策を提案して成果を上げると、毎月1回開催する「個別改善事例発表会」で紹介する。齋藤社長がそれぞれの取り組みにコメントを寄せ、現場のモチベーションを高めている。

●継続的な現場改善を促進するために様々な施策に取り組む
●継続的な現場改善を促進するために様々な施策に取り組む

改善の成果を人事考課にも反映

 2007年からは、人事考課にも改善を促進する施策を採り入れた。「パワーアップシート」と呼ぶもので、品質、コスト、環境、安全の各テーマに対する改善提案の件数や達成率、成果を記入する。これを人事評価の加点対象としている。

 3つ目は改善事例の共有だ。三菱樹脂本社の住設環境事業部が改善活動の促進に一役買っている。毎月1回、菱琵テクノを含む複数の工場の担当者が集まり、改善活動を報告する打ち合わせ会を開催している。「ほかの工場が頑張っている姿勢を見せて競争意識を高めている」(石井住設環境事業部長)。