三菱樹脂の住設環境事業部門が、トヨタ生産方式を応用した改善活動で成果を上げている。雨どいなどの住宅外装部材を生産する子会社は、7年間で在庫を100分の1に圧縮した。住宅1邸分の部材を1個の製品と見立て、1個流しの要領で生産する「邸別生産」などの施策が功を奏した。

 三菱ケミカルホールディングスグループの事業会社で、塩化ビニルなどのプラスチック素材とその加工品を製造・販売する三菱樹脂(東京・中央区)。同社の住設環境事業部は、ミサワホームなどの大手住宅メーカーに住宅関連部材を製造・販売している部門だ。例えば、雨どいや破風といった住宅外装部材を手掛けている。

 住宅関連部材は原材料の高騰が続いているうえに、住宅の需要動向によって製品の生産量が大きく変動する。さらに部材の多品種少量生産への移行が顕著になる一方、住宅メーカーからのコスト削減の要望も強い。この厳しい状況でも利益を確保すべく、同社の工場やグループ会社は改善活動に取り組んできた。

 中でも塩化ビニル管や住宅外装部材の加工などを手掛ける生産子会社の菱琵テクノ(滋賀・東浅井郡)は改善活動の旗艦的存在だ。同社は2000年に「DDK(誰でもできる化)活動」と呼ぶ、トヨタ生産方式に独自の工夫を加えた改善活動を開始し、大きな成果を上げてきた。その成果は三菱樹脂本社のみならず社外からも一目置かれている。齋藤稔取締役社長は「トヨタ・グループの幹部やインドの企業が見学してくれた」と胸を張る。

 例えば、菱琵テクノのメタル加工工場では、トヨタ生産方式の「1個流し生産」を応用した「邸別生産」を2004年に開始した。このメタル加工工場は、塩化ビニル鋼板を加工して雨どいなどを製造する拠点。2000年に10t(トン)以上あった製品在庫を、2007年までに100分の1に減らした。

●1邸ごとに必要な部材を必要なだけ作る「邸別生産」で在庫を100分の1に
●1邸ごとに必要な部材を必要なだけ作る「邸別生産」で在庫を100分の1に

 目覚ましい改善力を見せる同社に、三菱樹脂本社の住設環境事業部は「菱琵テクノは我々の生産工場の1つであり、一気通貫で改善に取り組む」(石井和夫理事役ライフライン事業本部住設環境事業部長)と協力を惜しまない。実際、同部の営業部門の注文確定時間を前倒しするといった協力を得て、メタル加工工場の製品出荷リードタイムが7日から1日へと劇的に短縮した実績もある。

 こうした菱琵テクノのノウハウは、間仕切りを製造する三菱樹脂本社の平塚工場などにも横展開されて成果を上げている。

赤字転落がロット生産見直しの契機に

 今でこそ本社から高く評価される菱琵テクノだが、1999年には売上高60億円規模に対して1億3000万円もの赤字を計上し、危機に瀕していた。

●加工コスト
●加工コスト

 同社は生産効率を向上させるには、ロット生産の見直しが必要だと考えた。住宅メーカーが求める「注文確定から2日以内」という納期に間に合わせるため、当時は在庫の作りおきが常態化していた。製品在庫は2000年には10tを超えるまでになり、在庫から必要なものをピッキングする作業の非効率ぶりが目立っていた。

●在庫量と部品点数
●在庫量と部品点数

そこで2001年にかんばん生産を導入した。それまでよりも加工ロット数を少なく設定し、かんばんを使って指示することにより、一時は在庫量を半分近くまで減らした。

 ところが、その成果は一時的なものだった。2002、2003年と時間がたつにつれて以前のように在庫が膨れ上がってしまったのだ。原因を調べると、「多品種少量生産が進み、部品点数が2倍近くに増えていた。一つひとつの在庫は減ったが、種類が増えたことで総量は変わらない水準になってしまった」(柴田敬一取締役総務営業部長)

 2004年の前半には加工ロット数をさらに半分以下に設定したが、抜本的な解決には至らなかった。部品が増えたため、在庫が多少減ってもピッキング作業の複雑さが変わらなかったからだ。

 ピッキング作業を無くせないか─現場の従業員たちは会合を開いた。すると「加工した製品をすぐパレットに載せて出荷すればいいじゃないか」という意見が出た。この発言をきっかけに、ロット生産を否定して1個流しを極める邸別生産の挑戦へと意見がまとまった。

 邸別生産は、注文があった1邸ごとに必要な部材を必要なだけ作って出荷する方式である。必要量だけを作るため在庫が増えないし、1邸分の部材がそろったらすぐに出荷に移るため、在庫からピッキングする作業も発生しない。