食品・酒類卸大手の菱食が、2008年7月初めに東京で開催した取引先向けの商品展示会「グランドフェア」で、この4月から本格的に取り組み始めた新戦略「生活者起点型マーケティング(R-WAVE、関連記事)」の詳細を明らかにした。

 R-WAVEは個店の商圏ごとにどんなライフスタイルの生活者が多いかを踏まえ、最適な品ぞろえや棚割りを提案しようというもの。実施に当たり、独自の生活者調査で得たデータと、小売店から預かったPOS(販売時点情報管理)データを分析した。

1000人の主婦へのインタビューに基づいて類型化

2008年7月、取引先向けの商品展示会で披露した7つの生活者像クラスターの概要パネル
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2008年7月、取引先向けの商品展示会で披露した7つの生活者像クラスターの概要パネル
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 同社が実施した生活者調査では1000人の主婦を対象にインタビュー調査を行った。主婦層を「年代」「有職・無職」「子供がいる・いない」「料理をする・しない」「夫婦仲が良い・悪い」など多くの軸で分類。主婦を7つのクラスター(固まり)に集約して生活者像を類型化した。

 この調査では、冷蔵庫内や食卓の様子にまで踏み込んだ。7つのクラスターごとに名前や年齢など細かい架空プロフィールは付けていないものの、イラストなどで生活者像を思い浮かべられるよう工夫しているのはペルソナ(顧客像、関連記事)マーケティングに近い取り組みといえるだろう。

 同社が定義した生活者像は以下の7つである(写真1)。

1)「かしこい節約ママ」=食費を節約するために安い食材で料理を作る。高価なイメージがある調理済み惣菜や冷凍食品は買わない
2)「シャキーン!働きママ」=仕事・育児に多忙で、調理済み惣菜や冷凍食品を多用する
3)「教えて!チャレンジママ」=専業主婦で時間に余裕があるが、料理は苦手。店頭のレシピカードなどの情報に頼る
4)「ネット愛用ママ」=(3)とは逆に料理には自信と意欲がある。ネットを使ったレシピ情報収集や「お取り寄せ」を多用する
5)「多忙ミドルお母さん」=子供がある程度成長し、パートで働くなど多忙。料理は加工済み食品を多用するが、安全性には敏感
6)「空の巣症候群」=子供が巣立って、夫婦2人暮らし。夫婦仲が悪く料理への意欲が減退している
7)「エンジョイシニア」=(6)とは逆に夫婦仲が良い。料理への意欲も高く、健康に配慮したものを作る

"スカスカ冷蔵庫"に表れるライフスタイル

 グランドフェア会場では、生活者像に典型的な冷蔵庫と食卓も例示した。(2)の「シャキーン!働きママ」の場合、冷蔵庫はスカスカだが、美容系ドリンクは充実している。食卓には調理済み惣菜がプラスチックトレーごと並び、しょうゆやソースなども付属のものを使う(写真2、3)という。

「シャキーン!働きママ」層の冷蔵庫の様子。内容物は少ないが、美容系ドリンク(左上)や野菜ジュース(右下)が目立つ   「シャキーン!働きママ」層の食卓の様子。調理済み惣菜が多く、トレーごと食卓に並べる傾向があるという
写真2● 「シャキーン!働きママ」層の冷蔵庫の様子。内容物は少ないが、美容系ドリンク(左上)や野菜ジュース(右下)が目立つ
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  写真3 「シャキーン!働きママ」層の食卓の様子。調理済み惣菜が多く、トレーごと食卓に並べる傾向があるという
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 (6)の「空の巣症候群」は、子供と同居していたころの感覚で買いだめするので、冷蔵庫がパンパンになる傾向があるという。

時間を節約したい主婦層向け「ディナーパック」。下ごしらえ済みの食材がワンパックになっている
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時間を節約したい主婦層向け「ディナーパック」。下ごしらえ済みの食材がワンパックになっている
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 中野勘治・代表取締役社長は「私自身が勤めた経験を振り返っても、食品メーカーはどうしてもプロダクトアウトの発想になってしまう。(7つのクラスターの)生活者が求める"ストライクゾーン"の商品の中には、生産効率が悪いなどの理由でメーカーが作れない商品もある。中間物流業の役割として、こうした商品を全国の小売業に提案したい」と話した。

 今回の調査を機に提案を強化することにした商品の例は、下ごしらえ済みの野菜や肉、調味料などをワンパックにした「八宝菜」「ビーフストロガノフ」などの「ディナーセット」(写真4)。料理はするが、時間が無かったり、時間はあるが料理を面倒がったりする(2)や(3)の生活者像を狙っている。

 今後の課題は、生活者像の分布を個店の商圏ごとに調べることだ。「かなり手間もコストもかかるが、やると覚悟を決めた。分析する人員を10人から50人に増やした」(中野社長)。分析体制作りに当たっては、英国の小売り大手・テスコがデータ分析専門会社として設立したダンハンビーの事例を参考にしたという。

 菱食の場合、現時点では小売業によってPOSのデータ形式などが細かく異なるため、海外事例に比べて分析に手間がかかる。これも今後の大きな課題だ。

■変更履歴
本文中、中野勘次・代表取締役社長と記載していましたが、中野勘治・代表取締役社長です。お詫びして訂正します。本文は修正済みです。 [2008/07/09 15:00]